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「シチェル、どうだ?他に必要な物はないか?」

「・・・あー、あとは樽だな。パルパ材の樽じゃないと墨油の貯蔵はできねーんだ」

木材のことならしらねの領分である。目線が自然としらねに流れた。

「新静岡あたりがパルパ材の主要な産地でんな。むろん加工もやってますえ」

「新静岡か。遠いが仕方ないな」

「何も直接行かへんでも、普通に発注すればええんとちゃいます?国分寺商店はんなら扱うてますやろ、地元の特産品なんやから」

「ああ、それもそうか。新東京にも支店ありそうだしな」

「ありそうどころか、この倉庫のお隣はんがそうですえ?今は人おらんみたいでんが」

「気づかなかった・・・」

さすがに腐っても元偵察兵、情報収集能力は高かった。

「てことは、これで製油所の目途が立ったわけか」

「・・・自分には話が読めんのですが」

「あー、長くなるから読めなくていいや」

ひどい。

「とにかく、今から大急ぎで製油所を作らないといかん。あとひとり必要な人材が揃えば

稼働できる。が、移動手段・・・そうだ、中田、馬車貸せ」

「え?」

「あちこち回って必要な物を手配しないといけないんだ。足が必要になる」

「今無線機積んでるんですけど」

「この倉庫に置いとけ。金長と日峰と、3人はここで待機だ」

「えー・・・あ、ソトは連れて行くんですね?御者が必要だし」

「いらん、しらねがやる」


中田は待ち合わせ場所に移動し、金長・ソトと日峰と合流。馬車を持って倉庫まで戻って来た。

「シチェルはここで待機。ジェムザとフィリノさんが戻ってきたら畝傍に移動してくれ、そこで待ち合わせよう」

「おう、わかった」

中田と金長が無線機を馬車から降ろし、日峰が設置作業に取り掛かる。

「これで全部です」

「よし、じゃあ馬車借りるぞ。そういえばこれ借り物か?」

「第三新東京港で借りました。保証金も積んだので、返せないときは最悪放棄してもいいと思います」

「わかった。じゃあしらね、出してくれ。まずは国分寺商店で樽の在庫を確認して、そのあと畝傍のところだ」

「はいな」

在庫量の確認を怠って失敗した経験が生きていた。


小松島としらねが出発したので、シチェルと金長たち、それにソトが倉庫に残る。

「なんだこれ?」

シチェルが、得体のしれない金属部品の塊に興味を示した。

「無線機だよ。これで朝霜と連絡を取るんだ」

「いや、ムセンキつったら魚の干物だろ」

「なんでだよ。どこで取り違えて覚えたんだ?」

「いえ、シチェルさんの言う通りです。私も好きです、ムセンキ」

「そっちは聞いたこともないんだが」

「いや、そこらへんで売ってるぜ?ちょっと買ってきて見せてやんよ」

即行動に移すたちのシチェルは、すぐさま倉庫を出て行った。が、出たところでジェムザと鉢合わせる。

「おっと」

「あ、戻って来た。フィリノさんは?」

「ああ、いたぞ。そこでムセンキを買ってる」

この倉庫街も港の一部なので、どうやら接舷した漁船から買い上げた魚をそのまま調理販売する露店がいくつもあるようだ。

「隆二は寄り道してから畝傍に向かうってさ。あっちで待ち合わせようって言って、さっき出発した」

「わかった、じゃあすぐに行こう」

というところで、ムセンキを手に入れたフィリノがジェムザに追いついてきた。

「フィリノさん、ムセンキ4匹分けてもらっていいすか?倉庫の中の仲間たちが見たことないってんで」

「何だと、ムセンキをしらないやつがいるのか。それは人生半分損してるな」

冗談を言いながら、フィリノは包んでもらったムセンキの串を4本取り出す。受け取ったシチェルはすぐ引き返して、倉庫で待つ4人にムセンキを渡した。


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