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「道理で気前よく買ってくれたわけだよなあ・・・」

重油数百トンをポンと買ってくれる外国人という時点で勘違いに気が付くべきだった。確かにたった4樽程度の油、命の恩人が必要としているなら贈り物として躊躇するようなものではない。

「リュージがこんな巨大な倉庫を借りるわけだ・・・」

学校のプール並みの大きさの倉庫を小松島が借りようとしていた時点で、何かの行き違いがあることを指摘するべきだったと後悔するジェムザ。今はその隅っこにぽつんと4樽が置かれている。

「足りないんなら作ればええんとちゃいますの?」

「気軽に言ってくれるなぁ・・・」

シチェルは製油の工程を端的にしらねに説明。

「・・・ほな、よーさん油石を揃えたらえんとちゃいます?」

「誰がどこから運んでくるんだ?」

「地下遺跡の中に油石ありましたやろ?」

「あったけどさあ・・・」

「あ」

ジェムザが何かに気付いて会話を止めた。

「一太郎から、元傭兵たちの再雇用先がないか聞かれてたな。人手ならあるぞ」

元傭兵だけあって体力はあるし、鉱山労働の従事経験者もいる。油石の採掘作業には適任と言えた。

「・・・採掘はできるかもしれないけど、細かく砕かないといけないんだが」

「大きな石の扉が上下するトラップがあっただろ?あれで粉々にしたらどうだ?」

「まあ、おおざっぱすぎるけどできなくはないか・・・。けど、そのあと水と混ぜて不純物を沈殿させないといけないんだ。淡水が大量に必要になる」

「海水じゃダメか・・・」

「あ、なんか水が湧き出るトラップがあったような?」

フィリノがそういうトラップがあることを説明してくれていた。また、遺跡のトラップの動力は川の水を引いていると一太郎が言っていたので、おそらく淡水であろう。

「今回必要なのは墨油だから、軽油とガソリンの分離は必要ない。ちょっともったいない気もするけど。搾りカスの処分場は、油石を採掘した場所にそのまま戻せばいいし・・・あれ?なんかできそうな気がしてきたぞ?」

話の流れが妙なことになって来たので、さっきから黙りっぱなしだった小松島がようやく参加してきた。

「もしかして重油の量産の目途が?」

「立った・・・かもしれない・・・」

となると、今真っ先に抑えないといけないものといえば。

「フィリノさんまだ新東京にいたか?」

遺跡内の道に詳しい案内人。それも油石を採掘可能な場所と、水が出るトラップの場所を知っている者。果たして、フィリノ以外に条件を満たす者が存在するのだろうか。

「わからん」

「すぐ確かめてくれ、今すぐ!」

「わかった」

ジェムザが、フィリノが滞在中であるはずの畝傍屋旅館に向かって走り出した。新東京の地理に詳しいジェムザが単独で走るのが一番早いはずだ。

「えーと、採掘場から水場まで運ぶ人足は新京都で調達だな。水場から第一新東京港まではどうやって運ぶかだが」

「樽に詰めて背負って運ぶのでは効率わりーな。いい方法ないかな・・・」

「新京都まではどうやって移動しはりますのん?」

「それもフィリノさんに相談してみよう。俺では馬車で移動ぐらいしか思いつかん」

「となると貸馬車屋と馬喰座を探さなあきまへんな」

「船員座で聞いてみるか。それと・・・」

「あ、上等兵殿!」

今後の方針を決めようとしているところに、突然割り込んでくる声があった。振り返ると、倉庫の入口に見覚えのある顔。

「中田!なんでここに?」

「さっきやっと新東京に着いたんですよ!新横浜でずっと足止め食らってて」

「今更かよ」

「で、船員座で上等兵殿を探そうとしたら、貸倉庫のリストが見えまして」

「ああ、あれか」

船員座の壁には、座が保有する貸倉庫の使用状況が張り出されている。そのうちのひとつが使用中表示になっており、借主が小松島隆二名義になっていた。中田はそれを見てやってきた模様。

「他の連中は」

「手分けして上等兵殿を探しております」

「ん?なんで俺を?」

元々、新大坂では金長一行が新東京を目指すことになっており、小松島一行の行動については金長一行には伝わっていないと思っていた。

「朝霜からの無線連絡で、上等兵殿が新東京で油を受け取ると聞いておりました」

「無線機持ってるのかよ・・・」

「はい、それで、自分は油を運ぶアトイ商店の船からたどろうと思いまして船員座に」

「なるほど」

行動原理と行程は小松島も理解できた。

「それで、油はどちらに?」

「これだ」

小松島は倉庫の隅に並ぶ4つの樽を指さす。

「残りは?」

「これで全部だ」

「・・・え?っと・・・?これ・・・で?何を、どうしろというのでしょうか」

「アトイ商店の生産力ではこれが精いっぱいだそうでな。あ、ちょっと待て、落ち着け。で、無いものは仕方ないとして、じゃあ製油所を作ろうという話になったところなんだ」

言い方のせいで話が一気に飛んだように聞こえる。


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