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金長一行はいまだに新横浜で足止め中である。宿をとるということは考えなかった・・・というか、普通は考えない。主計兵が上の指示で宿を手配し現場の兵士が投宿するのが普通なので、その現場の兵士が任務中に自分で宿をとるようなことは普通ならない。小松島の場合は現地案内人のジェムザが手配するので当たり前のように使い始めたが。というわけで、金長一行は馬車泊である。
「いつまで選挙やってんだ」
その馬車は市役所近くの臨時駐車場に停めていた。もともと何かの倉庫があった場所だが、スタンピード対策のため取り壊され空き地になっていた。
「街中で聞いた話なんですが、負けた前市長陣営が再開票を求めているらしく、なかなか勝敗が確定しないそうです」
圧倒的大差な結果だったので全く無意味な要求であるが、選挙規則で認められた正当な要求なので新市長陣営も拒絶できないらしい。さらに、その悪あがきは時間稼ぎであり、前市長陣営は資産を持って逃げ出す準備に忙しいのだという噂もあった。
「無線機の故障は直ったか?」
「日峰が今がんばってます」
実はこちらの問題は大したことはなく、ちょっとした配線の接触不良である。日峰なら時間さえかければ直せるだろう。
「・・・やることねえな」
「日報はもう書いたんですか?」
「書いた。2行で終わった」
あとは無線機の修理が終わったらそのことを書き足して仕事は終わりだ。
「たいちょー、無線機直ったって日峰さんが」
ソトが馬車から顔を出して報告してきた。続いて日峰が、せっかく修理完了したというのに満足していない顔を見せた。
「すみません、きちんと固定するには工具が足りないので移動したらまた振動で故障するかもしれません」
「今は繋がるんだろ?ならいい、とりあえず朝霜と連絡を取ろう」
なお、こちらから報告することは特にない。足止めが続いているということだけだ。しかし逆に朝霜側からは重要な情報が送られてきた。
小松島上等兵が先に新東京入りし、朝霜が入渠可能なドックを発見したこと。ルイナンセー氏が重油を購入・手配し、新東京に配送してくれていること。そのために朝霜は第一新東京港に移動する予定であること。
「先を越された」
「あちらは順調なんですねえ」
「私ら、やることないですね」
「・・・ないな」
「じゃあ、ちょっと買い物行ってきていいですか?昔、新横浜で食べておいしかったお菓子があるんです」
「菓子か」
任務中であるから本来なら許されることではない。だが、ソトはまだ子供だ。現地案内人を手なずけるという名目であれば嗜好品の購入もある程度は認められるだろう。
「まあいいだろ。中田、一緒に行ってこい」
「はい。じゃ行くか」
「行きましょー」




