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14

士官室には、朝霜の生存者のうち責任者と呼ばれる立場の人たちが集合していた。事情が事情であるため士官でなくとも入室が認められている。一番下でも曹長であり、上等兵に過ぎない小松島には不釣り合いな場所であった。佐多大尉と小松島が着席すると、主計兵が全員に戦闘糧食を配布し始めた。

「握り飯とカルピスかよ」

「申し訳ありません、救助した漂流者に提供する飲料としてカルピスを用意したもので」

「まあやむを得んだろう。食べながら聞け。現状の確認と今後の方針について発表する。」

佐多大尉は、ルイナンセーから得られた情報を順序立てて整理し、皆に伝えていった。

そこまでは皆もある程度受け入れられたのであるが。

「そして、これらの情報をもとに出した結論であるが・・・」

佐多大尉はここで一度皆の顔を見渡す。

「我々はすでに戦死したものと考える」

士官室全体がざわめく。まあ、当然の反応と言えるだろう。

「根拠はいくつかある。まず、空を見た者はいるか?すでに夕刻であるが、太陽が2つあった。ひとつは東から西へ、もうひとつは北から南へ動いている。そのような現象は、我々の世界ではありえないことだ」

確かに日没が西と南で同時に観測されている。また、天測の結果、地球上のいかなる天体状況とも異なる配置の星が観測できていた。夜になればもっとはっきりするだろう。

「次に、ナナナミネーという帆船について。あれは15から16世紀ごろ、いわゆる大航海時代に建造されていた帆船に酷似している。現状あのような帆船を、1隻ならともかく大規模に運用している国はない」

この意見については誰もが違和感なく受け入れることができていた。

「ルイナンセーという人物は、わが帝国はおろかアメリカ、イギリス、フランスといった列強諸国をひとつも知らないと言っていた。そして、彼があげた国々の名前を、私はひとつとして知らなかった。このことから、いわゆるタイムスリップという現象でもないと思われる」

タイムスリップだと仮定すると、アメリカ合衆国はまだ存在せず16世紀の人物が知るはずがない。イギリスという国名は日本独自の呼称であるし、イタリアもまだひとつの国としてはまとまっていない。ドイツについても、そう呼んでいるのは当のドイツ人と日本人ぐらいである。ゆえに、16世紀の人物が知っていてもおかしくない国というのは先ほど佐多大尉が上げたものの中ではフランスぐらいだが、さすがの佐多大尉もそこまでは気が回らなかったようだ。

「最後に最も非現実的な現象として、魔法というものがこの世界に存在していることがあげられる」

魔法。ウシアフィルカスと神官風の男のやり取りを見ていて佐多大尉がそう判断したものだ。

「あまりにも非現実的すぎるのでは」

「その通りだ。ゆえに、当初の結論に至ったのだ。ここは死後の世界、黄泉の国であると」

突拍子もない意見に、出席者たちは混乱していた。だが、小松島には心当たりがあった。

「何か言いたそうだな、小松島上等兵」

「は!いえ、何も」

「私自身、この自説を誰かに否定してほしいとすら思っている。反論を許す、言ってみろ」

「はい、大尉いいえ。反論ではなく別の証拠について述べたいのですが」

「よろしい」

「はい。第1魚雷発射管用の次発装填装置なのですが、ここに敵機の爆弾が命中する瞬間を目撃しました」

皆が息をのむ。

「あとで調べたのですが、格納されていた予備魚雷がなくなっておりました。おそらくあの時が本艦の最期であったと思われます」

「なくなった魚雷は前世に置いてきたというわけかな?」

「はいであります・・・あ、今ひとつ。その被弾の瞬間を境に、全ての敵機がいなくなってしまいました。敵が消えたのではなく、我々が前世から消えたのでは・・・と」

全員が言葉を発しない。ここが死後の世界だという大尉の主張は突飛なことではあるのだが、そうであれば納得できることもあるのだ。受け入れがたいが認めるしかない・・・という空気が醸成されつつあった。

「この説を明確に否定できる根拠が見つかるまで、ここが死後の世界であるという前提で行動しようと思うが、反論はあるか」

やはり全員が沈黙していた。

「では、そういうことだ。遺憾ながら我々はもはや帰る場所を失ったと考える。そこで今後の行動についてだが、メイジニッポンなる国がこの近海に存在するらしい。もしかすると日本と深い縁があるのではないかと思われるので、いったんそこに寄港しようと思う」

「しかし、日本ではないのですよね?受け入れられるでしょうか?」

「だめならだめで仕方あるまい。どのみち艦は燃料がなくなれば動けなくなるのだ。その前に陸地、それも人が住む港にたどり着かねば死んでしまうぞ」

「死後の世界で死んでしまうとどうなるのでしょうか」

「それは死んでみないとわからんな。異なる世界への生まれ変わり、異世界転生とでも呼ぶべき現象だろうか」


なろうの規約上、本作品は「異世界転移」扱いですが、登場人物らは異世界転生だと考えています。

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