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今日は畝傍再訪の予定であったが、伝令座、雑貨屋、昼食と時間をとられ微妙に遅くなってしまった。昨日地下から出てきた高台に上がる。

「地下ドックというか、山をくりぬいて作ったみたいだな」

「新富士山に連なる子山の一部みたいだな。遺跡があったんだからもともと地下ドックの原形になる地形があったのかもしれない」

最早それを知る人々はこの黄泉の世界にいない。死んだ人がどこに行くのかわからないのは元の世界も黄泉の世界も変わらないようだ。

「・・・どっちだっけ?」

祠の中に梯子があったのは覚えているが、祠が2つあったことには昨日は気づいていなかった。

「こっちかな」

シチェルが適当に開けると、そちらが正解だった。梯子を下りて地下ドックにたどり着くと、少し離れた場所に畝傍が接舷していた。

「おや?人がいるぞ」

畝傍の横に木箱を並べて作業している男性が数人いる。近づいていくとこちらに気が付いたようで視線が向けられる。

「見ない顔だな、どこから入った?」

と声をかけてきたが、小松島たちが武装していることに気付くと一気に警戒心をあらわにしてくる。

「待て、ルアーブル殿に話を聞きに来ただけだ!」

「まずはその槍をおろ・・・槍?ちょっと待て、動くなよ」

ひとりが剣を抜いたまま小松島に近づき、後ろに回る。

「ムラタジュー?の偽物か?いや、にしてはよくできている」

三八式を見てそう評価した。村田銃は畝傍が完成した時点では日本で最新型の銃であった。

「その者らはおそらく本物の皇室海軍であるぞ。通してよい」

上の方から声がする。ルアーブルが畝傍の上甲板からこちらを見下ろしていた。

「2日続けてやってくるとは、何ぞ忘れ物か?」

「いえ、確認したいことがいくつかありまして」

「左様か。ならば上がってくるがよい」

ルアーブルが良しと言えば良いことになるのか、あれほど警戒していた作業員たちがあっさりと道を空けてくれた。それでも警戒心はあるようで、小松島一行に向ける視線だけは変わらない。舷梯を上がって畝傍の甲板に出るとそこにも作業員たちがいた。

「この方たちは?」

「ああ、皇国海軍の者らだ。畝傍艦が最低限行動可能なように維持してくれておるよ」

つまり、機密を知る者たちということだ。それは口が堅いということをある程度保証された人物らであることも意味する。

「彼らは、ここの乾ドックを稼働させられますか?」

「むろん」

今回ルアーブルを訪問した目的のひとつが、ドック作業員の確保方法である。あっさり達成できてしまった。昨日と同じように甲板に建てられた小屋に案内されたが、作業員たちは入ろうとはしなかった。

「乗組員以外立ち入り禁止ですか?」

「そういうわけではないがのう。たまには茶でもと何度か誘ってはみたが、招きを受けてくれんのじゃ」

「じゃあ甲板でお茶会すればいいんじゃねーの」

シチェルがさらりと発した言葉にルアーブルは驚き、しばし固まった。

「その手があったか」

「えー・・・60年間全く思いつかなかったのかよ」


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