145 144話直後ごろの朝霜
「すァーセン!こちらアーサーシーモゆう船でっしゃったなー!」
以前にも朝霜に郵便を配達してくれたハーピーがまた来た。
「あんた前と制服が違うな?」
「あー、ちょい前に伝令座に就職したんですわー。ほなハンコよろー!」
例によって手紙を投げて寄こす。
「ところでナーナーナーミーネーエちゅう船はどれか知りませんやろか?」
「ナナナミネーならあそこの・・・5隻のうちのどれかだな」
「おお、助かりますわ!おおきにー!」
配達屋のハーピーはハンコを受け取らずに去っていった。
「艦長、小ま・・・失礼いたしました」
小松島からの報告書を佐多艦長に届けに行くと、ちょうどルイナンセー氏からの使者が訪ねてきたところであった、
「すまんがあとにしてくれ」
「はい」
伝令員が下がったところで、佐多艦長は使者殿から渡された手紙の続きを読み始めた。最後まで読んだところで最初からもう1回。
「これはまことでありますか」
「はい、すでに用意したございます」
手紙の内容は、前回燃料不足を理由に護衛をお断りしたことについての返答であった。ルイナンセー氏はすでに新函館に使いをやり、アトイ商店が抱えているありったけの重油在庫を確保して第一新東京港に移送中とのこと。
「ジューユー買ったました。アサシモ号は出港できるます、よろしいか?」
「第一新東京港までは十分に燃料は持つと思います。そのあとのことに関して検討したいのですが、海図はありませんか?ガリアルとベスプチを訪問するために必要な重油の量を計算してみたいと思います」
「カイズーわかりました、探すします」
微妙に通じていない気がしたので、念のためにルイナンセー氏に重油手配の礼状と共に今後必要なものについてまとめた手紙を送ることにした。明日佐多艦長がナナナミネー号を訪問するとだけ伝えてもらうこととし、使者殿にはお帰りいただいた。
「・・・まずいな」
完全にルイナンセー船団の一隻に組み込まれる流れだ。外堀をどんどん埋められている。タービン不調という事実を伝えても言い逃れにしか聞こえないだろう。
「そうだ、さっきのは小松島からの報告書か?見ておこう」
伝令員を再度呼び出し、用件を確認すると予想通りであった。開封して読み始める。
「うん?新東京?なんであいつが新東京にいるんだ」
新東京行きを命じたのは金長の一行のはずだが、そちらはいまだに新横浜にいると聞いている。
「我々以前にこの世界に来た日本人・・・なるほど・・・」
直ちに役に立つ情報ではない。しかし、これまでこの世界について何も把握できておらず地に足がつかない感覚を抱えてきたのが解消された気分である。そして、直ちに役に立つ情報も追記されている。
「ドックがあったか!」
第一新東京港の隠しドックに、朝霜が入りそうな設備があるという。だが、どの程度の実用性を残しているかは未知とのことで、確かにそれは小松島ひとりで調べられるようなものではない。
重油が届くことといい、乾ドックがあることといい、朝霜が第一新東京港に向かわなければならない条件がそろってしまった。ルイナンセー氏が重油を第三新東京港ではなく第一新東京港に運ばせたのは、自分の船団が第一新東京港に移動するからだろう。言い方は悪いが朝霜を釣るための餌だ。
「だめだな・・・どう考えてもあちらの都合のいいように動くしかないようだ」




