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小松島は昨日のうちに報告書を仕上げてあった。ただ、書くことが多すぎてかなりの部分をはしょるしかなかった。特にメイジニッポン皇国成立の歴史についてはばっさりカットし、明治時代の巡洋艦畝傍が朝霜同様に転移してきたことと、当時を知る者が存命であることのみ記してある。それ以外は、命じられた調査に対する結果報告である。

「こちら、第三新東京港までお願いします」

速達料金は少し高めだったが、さらに追加料金を支払って直達郵便というものを申し込んだ。普通の速達と違うのは、同方面への郵便物を取りまとめることなく専用便を仕立ててくれるところだ。これなら船員座で報告書が一晩眠ることもなく、今日中に佐多艦長の目に触れるだろう。

「返事が来るのはどこなんだ?」

「畝傍に届けてもらおうと思ったんだが、一応あれは秘密の存在らしいからな。宿に送ってもらうことにした」

「ほな今日は何をしはりますの?」

「畝傍のドックを確認したい。乾ドックとして使えると聞いたけど、実際に朝霜が利用するときにどうすればいいかわからないでは困るからな」

「てことはルアーブルさんとこに行くのか。何か持って行ってやるか?」

「そうだな。あたいと違って船長の許可書が手に入らないウシアフィルカスってことは畝傍から遠くへは行けないはずだし、差し入れしてやろうぜ」

「さっきの雑貨屋で何か見てみるか」

道塞ぎの雑貨屋へ引き返す。店内を改めてよく見てみると、食料や飲料も取り扱っているほか、書籍や魔法関係の道具まで並べてあった。商品在庫の豊富さでは相当なものだろう。

「なんだこれ」

シチェルが、棒の先に拳のようなものが造形されたアイテムを手に取った。振ると拳が変形し、指が何本か立つ構造になっている。

「隆二見ろよこれ。ひとりでじゃんけんができるぞ」

左手で振るたびに拳がぐーちょきぱーいずれかに変形している。シチェルの右手で作ったぐーちょきぱーと対戦することでひとりじゃんけんが可能なようだ。

「負けてるようだが」

「あたいが5連敗だと・・・つえーなこいつ。暇つぶしの道具か?ルアーブルにはちょうどいいんじゃないか?」

自分しか乗っていない船の中でひたすらひとりじゃんけん。60年も続けたら気が狂うかもしれない。

「新聞とかいいかもしれないな」

「ああ、それはよろしおますな。外の情報とか知りたいやろし」

ジェムザとしらねは書籍のコーナーへ移動していった。

「・・・本当に買うのかよそれ」

「面白いじゃねーか」

なぜかシチェルはひとりじゃんけん機が気に入ったらしい。のみならず、ルアーブルも気に入るはずと根拠もなく確信している様だ。

「ぬいぐるみ・・・うわ、なんでナイフが刺さってるんだ」

他におもちゃはないのかと探していると小松島がまた変なものを見つけた。腹部にナイフの刺さったウサギのぬいぐるみである。

「ひとりかくれんぼ用ぬいぐるみだってよ」

「ここはひとり遊び用おもちゃのコーナーなのか」

ふたりとも忘れている様だが、ルアーブルは外見年齢はともかく中身は60年以上生きているのである。


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