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日が明けて、小松島は朝一番で伝書座に向かうことにした。ドックの発見と重油の製造・販売業者の確定。この2つの情報をいち早く朝霜に届ける必要があった。

「ジューユの入手先は決まってたんとちゃいますのん?」

「アトイ商店が家庭内工業レベルの重油製造しかやってないなら朝霜が必要とする量を生産できない可能性があったからな。ルアーブル殿の話によると工業レベルでの製造量を期待できそうだ」

「うちの店ってけっこうでかかったんだな」

そこの末娘が何かをほざきになっておられる。

「ガソリンもたくさん作ってるみたいだから、それもほしいところだな」

「油にそんなに種類があるのか?」

「油石を絞って分離させると、軽質油とガソリンが取れるんだ。売れ筋はこの2つで、沈殿したものをろ過すると墨油が採れて、これも安値だけど売り物になる。それ以外の搾りかすは捨ててるんじゃなかったかな」

ちなみに、可燃ガスやナフサなどシチェルの解説以外にもいろいろなものが採れるのだが、黄泉の世界の技術では抽出しきれないことに加えて需要がないため廃棄されている。灯油と軽油の分離もできておらず、アスファルトにいたっては搾りかす呼ばわりして産業廃棄物扱いだ。

「お、あの店こんな朝からムセンキ売ってるぞ」

「移動中に数か月分食べたから当分いいよ」

新東京市は商店街と住宅街が分離されていないのか、住宅の隙間に小さな店や工場が挟まるようにして並んでいる。利用者にとっては便利かもしれないが騒音や臭気によるトラブルが絶えないのではないだろうか。

「伝書座ってこんなに遠かったか?」

「新東京は建物が入り組んでて一直線には進めないんだ。距離のわりに移動時間がかかるが仕方ないだろ」

畝傍乗組員らは集落が町へ、町が都市へ成長する過程で都市計画というものを考慮しなかったようだ。問題点が目に見え始めた頃には手遅れだったのだろう。

「もう少しで着くぞ。そこを曲がれば見えるはずだ」

ジェムザの言う通りに角を曲がると、確かに伝書座のシンボルであるゴルフ練習場のような大金網が見えた。・・・雑貨屋の屋根の向こうに。

「ここから行けるはずだったんだが」

「道を間違えはったんでっか?」

「いや、あの雑貨屋、通りを塞ぐように建ててやがる。無計画なのは今に始まったことじゃないがこれほどひどいことするやつは滅多にいないぞ。・・・ああ、そういうことか」

ジェムザはそのまま雑貨屋に向かい、入店する。小松島たちも続いた。

「何か買うのか?」

「いや、この店、通り抜けていいみたいだ」

確かに衣類の陳列棚と小物類の陳列棚の間を通っていくと店の裏側に出た。振り返ってみると一行が入った側よりも大きな看板があるので、こちら側が正面なのかもしれない。

「と、いうわけで。ここが伝書座だ」

予定より少々遅れたが、無事に伝書座にたどり着くことができた。その時ちょうど、ひとりのハーピー族が屋根の上から飛び立ち、南東の方へ飛び去って行った。

「高速伝書で第三新東京港まで届けるなら、まあ昼過ぎには届くだろ」

「そんなに早いのか?前会った滝川ってハーピーは新大坂と第三新東京港を2日かけたらしいんだが」

「あいつがのろいだけだ。伝書座なら航空速達専門とか重量物専門とか、各自の得意分野で働くハーピーがいっぱいいる。・・・ああ、ハーピー以外もいるんだった」

ジェムザの視線に合わせて見上げると、伝書座屋根の上で動く巨大な影。現代人なら一目でドラゴンと呼ぶであろう巨体が、足場を蹴って飛び立つところだった。

「でっけー!あれってフライチャイルドドラゴンだろ?」

「そうだ。たぶんあれは国際便だな。東に向かったってことはベスプチ方面か。まあ、リュージの報告書をアサシモ号に届けるぐらいならあんなのは必要ないが、とりあえず入ろうぜ」


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