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142 137話ごろの朝霜

「艦長、ルイナンセー殿の使者が来ております」

「ん?」

機関室で第一煙突の復旧作業を手伝っていた佐多艦長のところにそのような連絡が入った。

「・・・この格好じゃまずいな」

煙突整備なので当然煤煙汚れまみれなのだ。その姿で応対するのはさすがに無礼が過ぎるが、かといって居留守や代理を立てるのもよろしくない。

「少々お待ちいただくと伝えてくれ」

「わかりました」

なるべく急いで服を着替え、体の見えるところの汚れを落として応接室(以前はシチェルが使っていた部屋)で待ってもらっている使者の元へ向かう。

「お待たせいたしました」

「こちらは、突然の訪問で申し訳ありますん」

使者は握手ではなくお辞儀で挨拶をした。こちらの流儀に合わせる意図のようだ。

「で、ご用件の方は如何に」

「はい、まずは我が主のげんじょ・・・げんじゅう・・・現状についてだけどですが」

ルイナンセー氏はベスプチ連合州国からガリアル君主国へ向かう途中、メイジニッポン皇国へ立ち寄った。道中で護衛の船を失ったためメイジニッポン皇国で雇用しようとしたが、うまく集まらなかったらしい。別の港で募集をかけてみようと考え、第三新東京港から第一新東京港へ移動する予定とのこと。そして、移動する前に朝霜にも護衛についてもらえないか、ダメ元で依頼してみようと考えたのだそうだ。

「こちらを、主からの書簡だございます」

使者が差し出したスクロールには、ガリアルで用事を済ませたのちベスプチへ帰国するまで護衛についてほしい旨の記述があった。日本語で書かれてはいるものの不自然に角ばった字体は、礼を尽くすために不慣れな他言語を用いる努力の表れだろう。

「我々のほうにも、現在問題が山積みなのです。護衛につくどころか、出港することすら見込みが立っておりません」

「それは、何とかなる問題ですでしょうか?」

「何とかするために鋭意努力中であります。しかし、船を十分に整備するための港湾設備がなく、満足な補給も受けられず、乗員に休息も与えられずにいるという状態では如何とも」

コーワンセツヴィという単語だけは通じなかったようで聞き返されたが、それ以外は理解を得たようだ。

「問題が解決する、そうすると護衛につく、できるですか」

この質問に対する答えだけは何としても持ち帰りたいようだ。しかし、佐多大尉としてもこの質問に対してだけは確実なことが言えないのである。

「重油の入手に当てがつくまでは出港できません、とだけ」

「ジューユーが大事だありますか」

「はい、それが一番大事な問題です」

「わかりました、ジューユー探すします私たち」

「一応見当はついておりまして・・・」

佐多大尉は、新函館や新大坂で入手が可能という情報について詳しく説明した。また、アトイ商店という業者が生産しているらしいこと、そこから仕入れて販売している商人が複数存在していることも説明した。ルイナンセー氏にこれ以上借りを作ると私兵として戦わされる羽目になるリスクは承知していたが、行動不能のままよりはマシである。

「それと、金属加工が得意な技術者集団に心当たりはありませんか?」

「ココロア・タリでしたか、知らないでした」

これは、タービンブレードの劣化問題に関するものである。現状のまま全速運転を行うと劣化したブレードが折れて吹っ飛ぶという予想がなされており、本来であれば絶対に交換が必要なのだが、タービンブレードは極めて高度な技術力を要する部品である。現代であれば日米独の3か国しかまともなものを量産できないとされている、と言えばその技術の高度さが理解できるだろうか。

もちろんそんなものが大航海時代相当の黄泉世界にあるはずもない・・・が、魔法という技術があるのならもしかしたら、という期待を込めての質問である。どうにかして説明を行い、ココロアなる謎の存在についての疑問も解消した使者殿の答えは佐多大尉に期待を抱かせるものであった。

「ゲルリン連邦国、金属工作得意だです。すごい武器作る国だ。聞いたあったでした」

「ゲルリン・・・」

ルイナンセー氏との会話中に出てきた国である。確か技術立国で外交下手だとか聞いたような。

(いずれ訪問する必要があるかもしれないな・・・)


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