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梯子を上り切ると、そこは小さな祠の中だった。祠から出ると、そこは木々に囲まれていて周りの景色は見えなくなっている。

「新大坂に戻ってもいいが、せっかく新東京に戻って来たんだし、ちと休みを入れるとするか。私は畝傍屋旅館に泊まるから、用があるなら1週間ぐらいの間に来てくれ」

旅館の名前になるほど有名らしい。隠す気があるのだろうか。

「案内ありがとうございました」

「ああ。ジェムザ、約束の冒険者とはいつ会える?」

「なんなら畝傍屋に出向かせようか?」

「都合が合うなら頼もう」

「わかった、都合が合えばな」

フィリノは小松島たちに背を向けると手を一振りして歩き出した。その姿を見送ると、小松島はジェムザに向き直る。

「・・・さて、朝霜に大至急報告を送りたいんだが、どうすればいい?」

「ちょっと待ってくれ、まずはここが新東京のどのあたりかを確認するから」

フィリノが去った方向とは別の方向の木々の向こうから光が差し込んでいる。おそらくその向こうは新東京を見下ろすことができるようになっているだろうと考え、木の間を抜けてみた。

「ほぉー・・・」

思わず声が出た。

「これ、これが第一新東京港か?」

「こらたいしたもんやな・・・」

10や20どころではない、100隻に達するかもしれない数の帆船がぎっしりと係留されている巨大な港を見下ろす位置にこの高台はあった。

「第三新東京港とは比較にならんな、これはすごい」

「町もすげえぞ、新大坂も大きかったがこっちのほうがずっと広い」

「けど建物はみんな低うありますな。4階以上の建物が見当たりまへんわ」

シチェルとしらねは興奮しまくっているが、ジェムザは何かを探している様だ。

「えーと・・・あれだな。伝書座だ」

指さした先には大きな金網で囲まれた施設がある。

「ハーピー族が直接相手に手紙を配達してくれる施設だ。外国にも送ってくれるぞ。あそこに行けば最速でアサシモ号に報告書を届けられる。メイジニッポンではここにしかない施設だ」

「ちと遠いな」

「仕方ないだろ。まあ今からだと今日中には間に合わないかもしれないが」

すでに陽が傾き始めている。少々時間の感覚がおかしくなっているが、どうやら夕方寄りの昼過ぎという時間帯のようだ。

「となると旅人座を探した方がいいか」

「新東京の旅人座は3つある。ひとつは第一新東京港の船員座の隣だ。ひとつは伝書座よりずっと向こうにあるから余計に遠い。もうひとつが確か・・・あのあたりだったかな?私も行ったことはないから正確な場所は知らない」

「第一新東京港のが一番近いか?」

「だがたいてい満室になっているぞ。港の大きさのわりに小さいんだ。資金に余裕があるなら今回は旅籠座に頼った方がいいんじゃないか」

本来は冒険者の一時的な滞在のために整えられているのが旅人座なので、サービスが少ない分安い。旅籠座とその登録施設はいわば観光客向けの宿泊施設なので手厚いサービスと引き換えに料金が高い。最低でも旅人座の3倍からと考えた方がよい。

「支給されたお金を勝手に使うわけにはいかんだろう」

「支給されたんじゃない方を使えばいい」

盗賊討伐の報奨金がほぼ全額残っている。これは帳簿外のお金なので、むしろ朝霜に持って帰らない方がよいものだ。

「じゃあ・・・今回はいいところに泊まるか」

「おっしゃ」

「おおきに」

ジェムザの知る範囲で手頃な旅籠屋ギルド関連宿泊施設を紹介してもらい、少し早いが今日はそこで一泊することにした。余談であるが、奴隷の身で旅籠座に客として宿泊したのはしらねが初めてだったようだ。


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