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「次に、この隠し軍港についてお聞きしたいのです。畝傍は大政変後にここに隠蔽されたのですか?」
「うむ。数年はメイジニッポン海軍の象徴として表に浮かんでおったがな。しかし実は航海には耐えられぬという話が広まってしまってはまずいゆえ、隠すことになった。工事中に地下軍港奥に存在した遺跡との間を抜いてしまい、水没させてしもうたのじゃ。ああ・・・確かその時に、畝傍乗組員も何人か流されてしもうて行方不明じゃ」
遺跡が水没した理由についてはフィリノも初耳だったようで、驚いた顔をしていた。
「まあ、それはそれとして地下軍港の整備は続けられた。一応畝傍艦の延命が可能な程度に設備を整えたはずじゃ」
「乾ドックはあるのでしょうか?そして、その大きさは?」
「むろん船の整備には欠かせぬゆえ、あるぞ。大きさは・・・120メートルかける14メートル。十分であろう」
全長がギリギリであるが、朝霜を隠しつつ整備可能というのはありがたい。
「畝傍の燃料は・・・石炭ですよね?こちらでは油石と呼ぶかもしれませんが」
「いかにも。内火艇はガソリンじゃがな」
「どこから調達しているのですか?」
「アトイ商店という石油業者が卸してくれよる。航海に出ることはないゆえ、それほど大量には必要としておらぬが、発注すれば朝風艦が必要なだけ用意してくれるであろう」
「朝霜です。燃料はわかりましたが、武器弾薬はどうしているのですか」
「出撃せぬゆえ使うこともない。弾薬庫に仕舞いっぱなしじゃ。一応、足りなくなったら作れるようにしておったはずじゃがな」
これで整備ドック、燃料、弾薬のあてがついた。あと必要な物と言えば・・・。
「ドックの運営に必要な人手を集めることは可能ですか?」
「皇国海軍の者に手伝わせればよかろう。事情を聞けば嫌とは言うまい」
「・・・よくわかりました。どうやら、朝霜がお世話になることになりそうです」
「ふむ、役に立つのならそれでよいわ。つまり朝雲艦がここに来るわけじゃな?」
「朝霜は現在第三新東京港におります。連絡がつけば、おそらく来るでしょう」
「それは楽しみじゃな。他に聞きたいことはないか?」
「正直、山ほどあります。しかし、今は得た情報を報告したいので、また近いうちに参りたいと思います」
「よかろ、こちらも聞きたいことはたくさんあるが、朝霜艦をこの目で見てからにしておこうぞ」
ルアーブルは冷めてしまった紅茶を一気に飲むと席を立つ。一行も慌てて残りの紅茶を飲み切った。
「いつごろになるかの?」
「それも聞いてみないとわかりかねます」
「楽しみにしておるぞ」
小松島とシチェルは三八式小銃を背負い、ジェムザとフィリノは薙刀を担いだ。
「60年経っても、銃の形状はさほど変わらんものじゃの。下の武器庫に、イームレ大尉らが使っておった銃があるぞ」
「それも今度見せていただきたく」
「うむ。しかと約束した」
畝傍を下艦した一行はフィリノの案内でさらに奥へ進む。
「必要な情報は手に入ったか?」
「十分に。報告するのが楽しみです」
現時点で小松島が有していたすべての謎と疑問点が解決しているわけで、なんとなく足取りも軽くなった気がする。
「ここの梯子を上れば新東京を見渡す高台に出る」
「そんなところに秘密ドックの入り口を作っていいんでしょうか」
「知らんな」
当時は何もなくて機密性が保てる場所だったのかもしれない。もっとも、ルアーブルの話では定期的に秘密ドックに出入りする人がいるようで、知る人ぞ知るという程度なのだろうか。




