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会談は極めて友好的に終了した。ウシアフィルカスを取りに戻った執事は先に戻っており、佐多大尉とルイナンセーが並んで士官室から梯子まで歩く。その後ろに小松島と通訳がついていく。
「まさかこの煙が火災ではなく動力だとは思いませんでした」
「ああ・・・ええ、まあそうでしょうな」
ルイナンセーの言葉に歯切れの悪い佐多大尉。梯子のところで執事がウシアフィルカスを持ってくるのを待つ。しばらくするとナナナミネー号から青い神官服のようなものを着た男性が梯子を下りてきた。続いて、質素な布だけを身に着けた子供が下りてくる。神官服と比べるまでもなく粗末な素材で作られていることがわかり、しかも破れやほつれが目立つ。シミや汚れが全体についており、極めつけには腰のあたりが茶色く変色しており、悪臭を放っていた。もっとも、においの原因は布のせいだけではなさそうで、伸び放題の髪が前は口元までを隠し後ろは例の茶色いシミまで届いている。これでよく前が見えるものだ。浮浪者もかくやという程に汚れた髪はあちこち絡まり、べとついた汚れで互いに貼りついている。
「・・・まるで奴隷だな」
思わず小松島の口からこぼれた言葉に、ルイナンセーが反応した。
「奴隷などとのそんな上等なものではありませんよ、ウシアフィルカスですからこんなものです」
通訳の翻訳がどこまで正確なのか、小松島は耳を疑った。つまりこの子供は奴隷以下の存在で、それにふさわしい扱いを受けた結果このような姿になったということか。佐多大尉も驚きを隠せない顔で小松島と目を合わせた。
神官服の男が現地語でルイナンセーに話しかけ、ルイナンセーからさらに通訳を介して佐多大尉に質問が届いた。
「神室はどこでしょうか?」
「しんしつ?」
これもまた聞いたことのない言葉であったが、艦内神社がそれに当たるのかと考え、小松島が神官服の男と子供を案内する。神官服の男が現地語で呪文のような言葉を唱えた。
「Oddogaz iis usiafirukas izneytusuke・・・」
最後に祈るように両手を合わせ、指を絡ませる。すると、子供の足元からピンク色の光が生じた。水面に波紋が広がるように光が走り、消えていく。
「契約完了です」
「はあ、そうですか」
としか言いようがなかった。
ルイナンセーがナナナミネーに戻り、執事と通訳が続き、最後に神官が梯子を上り切ると、梯子が引き上げられた。
「大尉殿、この子供がウシアフィルカスなのでしょうか?」
「まあ話の流れからしてそうだろうな」
小松島の不在中に決まったことだが、船団はこのままメイジニッポン皇国を目指す。朝霜はそれに同行することになったそうだ。
「所定の作戦はどうなったのでありますか?」
「まあ、あとで説明する。最先任としての判断と、その結論を伝えるから各部署の責任者を第一士官室に集めてくれ」
「はい、ですがその前にこの子供を誰かに綺麗にさせようと思います」
「ああ、そうしてくれ」




