137
小松島の頭の中でようやく話がつながった。メイジニッポン皇国はやはり明治の大日本帝国が由来だったのだ。
「・・・そういうことだったのか」
ひとり納得する小松島であったが、内火艇は順調に畝傍に近づきつつあった。
「よし、あのへんにつけてくれ」
フィリノの指示に従い接舷する。第一新東京港の秘密地下港に到着だ。
「確かに2日で着きましたなあ」
「最後に一気にスケジュールを調節するとは思わなかった。絶対無理だと思ってたが」
偶然ではあるが乗った時と同じ順番に下船し、内火艇が流されないように係留を行う。
「おかしいな、いつもならすぐに来るはずなんだが」
「来るって、何がですか?」
フィリノは何かと待ち合わせていたようだが、そんな打ち合わせをする時間などあっただろうか。と、頭上から声が落ちてきた。
「おや、予定よりずいぶん早いではないかフィリノよ」
一行が見上げると、畝傍の甲板から幼い子供がこちらを見下ろしていた。赤とも金ともつかない髪色に、動物の耳らしきものを頭に着けている。
「動物系の亜人か?」
「狐人をやっておるよ?今そちらに降りる故」
そう言うと狐耳の亜人少女は一度姿を消し、舷梯から降りてきた。
「つい先日ここを発ったばかりではなかったか?ひと月は戻らぬかと思っていたが」
「ああ、こっちまで人を案内する仕事が入ってな。紹介しよう、ウネビ号のウシアフィルカス、ルアーブルだ」
後半の言葉は小松島一行に向けてのものだ。ウシアフィルカスという単語をしばらく聞いていなかったので半分忘れかけていたが、畝傍も船である以上この世界ではウシアフィルカスを乗せていても不思議ではない。
「ルアーブルじゃ。ウシアフィルカスではあるが船長代理もやっておる。おや?もしやその制服、大日本帝国海軍の手の物か?」
「あ、ああ、そうだ。大日本帝国海軍第21駆逐隊朝霜羅針艦橋付見張員、小松島隆二上等兵だ」
「下っ端じゃの」
即切り返されて小松島は正直ちょっと腹が立った。
「しかし、皇室海軍ではなく大日本帝国海軍と聞いて即座に返事をしたところをみると本物じゃな。ようやっと本物が来たか」
「今度こそ本物だったんだな?」
「ああ、ご苦労じゃったなフィリノよ。こやつでちょうど40人目だったが、50人来ても本物に当たらなかったらあきらめようと思っておった。まあ、ともかく歓迎しよう、乗艦いたせ」
改めて確認するが、小松島の本来の目的はまとまった量の重油の入手と、朝霜が利用可能な船渠を見つけることである。が、それ以外にも、黄泉の世界およびメイジニッポン皇国についての情報収集が重要であった。畝傍の舷梯を上がりつつあるルアーブルのあとに続いて乗船し、話を聞いてみようと決めていた。
「いいのか?先を急がなくて」
「話を聞いたうえで相談もしてみようと思う」
「・・・じゃあ任せるぜ」
シチェルも続き、ジェムザも舷梯を上がり始めた。問題はしらねである。
「手伝ってやるよ」
「あ、おおきに」
荷物が多すぎて、細い舷梯を上がることができずにいたが、最後尾のフィリノの助力でなんとかなった。




