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最高速でぶっ飛ばし続けるわけにもいかないが、それは単に燃費やエンジンへの負荷という問題だけではない。ところどころ水深が浅くなっており、座礁を避けるための回避行動が求められるため減速する必要があった。ちなみに、船舶で細かい操舵が必要な場合、速度を落としすぎると舵の利きが悪くなってかえって危険なのである。例えばキスカ島に秘密裏に接近する任務を帯びた巡洋艦阿武隈は、霧で視界が悪いなかで浅瀬を避けて島に近づく必要があり、最低限の低速かつ最大限の高速という矛盾した航海を余儀なくされたことがある。

「右のほう、ちょう浅あなっとります」

「とりかーじぃ」

しらね、シチェルが見張りに出て前方の危険な水域を発見する役目を担った。ジェムザとフィリノは左右から水面を覗き込み、浅いところに近づきすぎていないかを警戒する。

「左寄せすぎ」

「舵もどーせ」

こうして、全速力ではないもののフィリノが普段操船するよりもずっと早く、小松島一行は第一新東京港に近づいて行った。

「天井の様子が変わったようだが」

ここまでは明らかに人工の遺跡といった様相であったが、ある場所から急に土や岩が露出した壁面が見られるようになった。

「このへんはもう第一新東京港だな。気をつけろ、距離は短いが真っ暗になるところがある」

遺跡の中はなぜか明るくなっていたが、遺跡を出た以上その不思議な照明の光源が失われる。遺跡からの光も第一新東京港からの光も届かないところは数十メートル続いたが、壁面に明かりとり用の穴が窓として設けられはじめた。薄暗いが周辺が見えなくもない。

「フィリノ殿、第一新東京港は地底港なのですか」

「いや待て、そんなはずはないぞ。私は何度か来たことがあるが普通の港だった、姉、ここは一体どこなんだ」

「第一新東京港の秘密ドックってところだな。皇室海軍の秘密基地だ」

「皇室海軍?皇国海軍のほうじゃなくてか」

「のようだな。とはいえ、今や皇室海軍は1隻の船と1人の軍属を残すのみだが」

「知らないぞそんなこと・・・。姉はどこでそんな話を聞いたんだ?」

「そりゃ生き残った本人からさ。いつもこの先にいるからすぐ会えるだろう」

その時、前方を警戒していたシチェルが何かを発見した。前髪を挙げて遠視魔法を使用。

「・・・なんかでっかい船があるぞ」

「うーん、うちにはまだ見えまへんなあ」

艦橋見張り員の小松島にも見えた。

「随分古い型式だな。帆船か・・・いや、待てよ。帆走可能な船か」

小松島は記憶を頼りに、遠くに見える船の正体を見抜こうとし始めた。

「思った以上に古いやつだ。下手すりゃ日清戦争時代の物かもしれんが・・・いや、こいつ例の絵葉書の船じゃないか?」

操縦中なので合切袋の中身を取り出す余裕はないが、記憶している限りではそのシルエットに似ている気がする。

「絵葉書って何だ?」

「以前知人に頂いた、皇室海軍の鉄製軍艦の絵葉書があるんですが、それに似ている気がしまして」

「ああ、じゃあそれで間違いないぞ。あれが皇室海軍唯一の所属艦、ウネビ号だ」

「ウネビ号?」

内火艇が近づくにつれて、その船の姿がはっきり見えるようになってきた。明かり取りの窓も大きくなり、数も増えて、視界が確保できるようになってきた。

「思い出した。一太郎が第一新東京港に隠し軍港があって皇室海軍の戦闘艦が隠されているとか言ってたろ」

「ああ、そういえば言ってたような・・・あ?ウネビ号って、まさか軍艦畝傍?」


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