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小松島は初見となるムセンキだが、魚の干物を焼いたもののようだ。非常に硬く、まるで木の枝のようだ。サンマサイズの鰹節と考えればイメージしやすいだろうか。
「まず半分に折るんだっけか?」
「ああ、真ん中で真っ二つにな」
シチェルの食べ方にならい、全員がぽっきり折ってみる。
「で、白い丸が見えたら硬いやつ」
「これか?」
フィリノのムセンキの断面に、確かに白い丸が見える。骨のようにも見えるが、背骨にしては変に偏った位置にあって不自然だ。正体は不明である。
「そうそれ」
「じゃあ当たりだな、私は硬いのが好きなんだ」
「姉は昔は柔らかいのが好きって言ってなかったか?」
「昔はな。今はずっと硬いままのやつがいつまでも味わえるから好きだ」
「うちもですわー」
硬いのが好き派は2人だけのようだ。小松島はとりあえずかぶりついてみたが、見た目通りに硬い。フィリノが引き当てたのはこれ以上に硬いのだろうか。
「赤筋発見」
「当たりだな」
シチェルのは赤い筋入りだった模様。
「赤いやつは味が違うのか?」
「変わんねーけど特別感があるだろ」
「まあそれはわかる」
時代場所を問わず、子供は無意味なものに意味を見出すようだ。
「なあ姉、しつこいかもしれんが、本当に2日で着くのか?」
「着く。明日は楽だぞ」
「楽ってどういうことだ?」
「遺跡の一部は水没していてな。船で移動するから歩かなくて済む」
水没ということはどこかで水源と繋がっているということだろう。以前小松島一行が流されたとき、一太郎がジェムザが遺跡に流された可能性を指摘していたが、十分ありえる話だったわけだ。
「今どのあたりかな」
ムセンキをあっという間に食べ終えた小松島が地図を取り出した。
「これだけ上下移動が激しいと距離の感覚がつかめないな。姉、わかるか?」
「だいたい4分の1ぐらいかな」
おおざっぱに地図で距離を測る。
「このへんか」
「じゃあまだまだだな」
ムセンキの味は濃く、のどが渇きそうだ。休憩中に水分を補給しておく。
「よし、出発するか」
フィリノとしらねはまだ口の中にムセンキを残しているらしい。そういう食べ方が好きなのだ。そのまま移動を再開した一行は、また休憩所から延びる一本道を移動。1時間ほど歩いたところで上り階段があり、それを上がる。
「あったあった」
目印にしているらしいのは、ホースが丸めてかけられている壁。
「なんだこれ」
「消火設備だと思うが詳しくは知らん」
そこを左折。崩れかけた柱のところで右折。すぐに螺旋階段を下り、降りてきたところにあるのは広間。北と西に通路が伸びているが、なぜか北の方は奥に光が見える。それを放置して西へ向かった。その後も上がったり下りたりを繰り返してさすがにシチェルが音を上げた。
「休もうぜ・・・」
小松島が時計を見ると夜の8時。確かにそろそろ大休止と睡眠をとってもいい頃合いだ。
「今日はここまでにしておくか?」
「予定通りですかね?」
「まあこんなものだろう」
想定通りのペースらしいので、今日のところは行軍終了とした。各自荷物を降ろして座り込む。
「ふう・・・陸の移動をこれほど続けたのは久しぶりだな」
小松島も疲れを感じていた。ジェムザも顔にこそ出さないものの疲労感を隠しきれておらず、無言で足を揉んでいた。意外なことに、一番荷物が多いはずのしらねは平気そうであった。
「食事、配りましょか?」
「ああ、頼む」
今朝、出発前にフィリノが荷物を振り分け直したのは、奴隷だから一番重い荷物を持たせるというのではなかったようだ。全員に必要最低限の物資を持たせ、しらねに余分な分を持たせていたらしい。その目的は誰かが万一はぐれてもしばらくは単独で生き延びられるようにするためだろう。また、しらねの荷物には軽くてかさばる簡易食料の割合を増やしてあったようで、この大休止のタイミングに合わせて食料を配布すると、しらね以外は荷物を解く必要すらなかった。
「どこまで行っても同じ明るさだな」
「それが不思議でならないな。姉はこの仕組み知ってるのか?」
「いや、こればかりは私にもわからん。気づいてるか?私らの影がないんだ」
影がないと言われて確かめてみると、確かにどう動いても壁や床に一行の影が映ることはなかった。当たり前のことだが、光源、対象物、影の順で一直線に並ぶはずである。しかし対象物があって影がないということは光源がないということになるわけで・・・。小松島はそのうち考えるのをやめた。




