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「えーと、ここから新函館に行くには・・・ちょっと時間をくれ、考える」
「はい」
フィリノは脳内マッピングができているようで、その場に座り込むと新函館へのルートを検証し始めた。
「あそこは埋まってるから迂回するとして・・・いや、もう一つ下・・・」
やがて、最速で新函館に向かうルートを選び出したらしく、北を指し示した。
「一直線に向かうルートは塞がっている。いったん地上に出ないといけないが、ビープラントの群生地を通らないといけない。ナイクラの花の蜜を持っていないか?」
「あんな高いものおいそれと買えるか」
「取りに行けばいいじゃないか」
「無茶言うな」
ジェムザとフィリノの間で勝手に話が進んでいく。しらねがそっと小松島に解説してくれた。
「ナイクラの花ゆうんは、メガアースボアの糞でないと育たんのです。メガアースボアの生息地には上位種のファイアボアも生息してますけん、なまじな冒険者では取りに行けまへんのや」
「その蜜が、安全に通行するのに必要なのか?」
「ビープラント避けには必須どす」
「なるほど」
「たしかうちの店でも1回扱ったことがあるぞ、ナイクラの蜜」
「ホンマでっか?やりますなあアトイ商店はん。ちなみに、めっちゃ甘いよってに、好事家はんらも高値で買うてくれはりますわ」
それはともかく、ないものはない。小松島の所持金からすると買えなくもないのだが、販売している店を探す日数を考えると現実的ではない。他のルートを検討してもらうと、またしばしの熟考の末にフィリノが出した結論。
「さらに迂回して東海岸沿いを北上。魔物はさほど出ないが激しく遠回りになる。新東京まで出た方がマシだな」
「・・・他にはありませんか」
「地上に出たり地下に潜ったりを繰り返すルートもあるが、戦い続けになるぞ。私なら平気だが」
これまた厳しいルートである。やはり楽はできそうにない。
「このまま予定通り進んでいただくということで」
「そうなるか」
図らずも小休止を取ることになった一行は再び移動を開始。多くの小部屋が並ぶエリアで、そのひとつの中にある階段を降りて下の階層へ。たくさんの柱が立ち並ぶ大部屋に出たところで再び西進。
「押しボタンがいっぱいあるが、どれも押すなよ」
「全部トラップですか」
よく見るとほとんどの柱に押しボタンがついている。しばらく進んだところで大きな階段が見えてきたのでこれを上る。今度は神殿のようなものが正面に見えたが、回り込んで迂回。すぐにまた大きな下り階段があるので下る。階段とほぼ同じ幅の通路が長く続いていたのでひたすら進む。
「今何時ぐらいかな」
「昼過ぎかな」
「この先に休憩所みたいなところがあるから小休止しよう」
フィリノの言う通り、分岐もなく30分ほどひたすら続いた通路もようやく終点らしく十字路に出た。その真ん中に石造りの円環があり、その中心には灯篭のような構造物が据え付けられている。
「ははあ、これ魔法のトラップだな?」
ジェムザは灯篭を一目見てその意味に気付いた。
「作動させるとこのエリアが水没するトラップだ。触るなよ」
「・・・本当にトラップか?」
だが、小松島がそれに疑問を呈した。
「人が住んで暮らしていたらしいんですよね?自分たちの家や財産が水に浸かるようなトラップを街中に仕掛けたりしますかね?」
「だが、そのトラップは実験済みだ。魔法石に触れるとその灯篭から水が噴き出す。もう一度触れるまでずっとだ」
「何考えてそんなもの作ったんですかね」
「知らん」
「とにかく休もーぜ。今ムセンキ持ってるのしらねだっけか?」
無線機ではなくムセンキ。小松島パーティのメイジニッポン出身組たちの好物のほうだ。新大坂出発前にシチェルがこっそり買ってあった模様。
「ほな、皆はんにお配りしてよろしいか?」
「おう」




