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小松島たちがフィリノとしらねのところに戻ると、妙にしらねの荷物が増えていた。
「あんたのところの奴隷、ちょっと余裕あるみたいだから荷物持ってもらうよ」
「ああ、それなら・・・いけるのか、しらね?」
「はあ、こんぐらいなら別にどうということあらしまへん」
荷物は見た目より軽いらしく、しらねは片腕で上げ下げして見せた。
「じゃあ出発するぞ。今日はちょっと上下の移動が多いから休憩を2回挟む。そのかわり明日は楽になるが」
「姉。本当に2日で着くのか?どう考えても計算が合わないが」
「何度も往復してるんだ、間違いはないさ」
ジェムザはそれでも納得できない顔をしていた。フィリノが歩き出すと、小松島、そして残りの全員が後に続く。ものの数分で丁字路に出るが、先ほどのものよりさらに大規模な崩落の跡があった。こちらは空も見えず、直進方向の通路が完全に塞がっている。
「ここを直進できれば早いんだが、見ての通りだ。いったん右に曲がって迂回する」
「なあ、この土砂って全部油石か?」
「みたいだな」
「すげえな、こんな高品質の油石が山積みだぜ。売ればひと財産だ」
「運ぶのが面倒くさい。魔物と戦って倒しまくった方が手っ取り早いし、何より楽しいだろ」
考え方の違いである。会話が途切れたと判断したフィリノは宣言通り右折して北上。その先はどうもいくつもの分岐があるようだが暗くてよく見えない。
「ここの分岐を右に曲がると下に降りる階段があるんだ」
「一太郎がいれば明かりには困らないのにな」
フィリノはいちいち解説してくれるが、それがないと足元すら見えづらいので危険なのだ。階段は3人が並んで降りられるほどの幅があったが、足音が金属音であることからおそらく鉄製であろう。地下深くに降りるわけでもなく、すぐに下階に着いた。さらに下に降りる階段があるようだが今回は用なしである。
「さて、ここまでは遺跡最上層階だったが、特に危険なものはなかっただろ?問題はここからだ。安全な道を通らないと侵入者除けのトラップが沢山ある。あえてそのトラップを通る場所もあるから、注意してくれ」
「危険がいっぱいってことか?」
「そうだ」
シチェルの質問に答えたフィリノは階段室から出ると松明を消した。だが、なぜか暗くならない。目が慣れたのではなく、間違いなく明るいのだ。と言っても、本が読める程度の明るさではあるが。
「大広間か」
「集会場として使われていたんじゃないかと思う。ほら、あそこに演説台みたいのがあるだろ」
「姉は観光ガイドができそうだな」
広間の壁には通路に通じるいくつかの出入り口がある。そのうちのひとつにフィリノは皆を誘導した。
「まるで地下都市ですね」
「都市にしてはそこらじゅうに危険がいっぱいだけどな。町というより軍事施設なのかもしれん。地上の軍勢の侵入を防ぐための防衛システムとしか思えんものがいっぱいある。たとえばそこの壁、少し出っ張ってるだろ?」
フィリノの言う通り、壁を構成するブロックのうちひとつだけが不自然に飛び出していた。
「それ押すとトラップ起動するから押してみな」
「安全なのですか?」
小松島がおそるおそる出っ張りを押してみると、さしたる抵抗もなく押し込めた。すると、先ほどの大広間との交通を防ぐかのように、天井から仕切り板が下りてきた。完全に下りきると周囲の壁と同化し、行き止まりにしか見えなくなった。おそらく反対側では広間からの出口がひとつ見えなくなっているだろう。
「こんな風に、トラップと言っても死にはしないものがほとんどだ。だが、知らずにそこの壁を押してしまうと、仲間が下敷きになることもありうるってわけだ」
「わけもなく侵入者を殺傷するためだけに設置されたわけじゃないってことか。姉はこの遺跡にどのぐらい潜った?」
「新東京や新函館に楽に行けるから便利に使ってるよ。南に行けば第二新東京港近くに出られるし、便利な抜け道さ」
ほぼメイジニッポン皇国全域に広がる大遺跡ということになる。
「ちょっと待ってください、新函館まで繋がっているんですか?」
「ああ、もちろん距離はあるけどな」
「我々が新東京を目指しているのは、新函館行の船に乗るためなのですが」
「・・・先に言えよ、無駄に遠回りになっちゃったじゃないか」




