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130話ごろの朝霜
「艦長、金長の一行からの定時連絡がありました」
金長たちには九四式無線機を持たせてある。携帯電話とは比較にならないほど重いので馬車がないと運べないのであるが、おかげで朝霜との連絡に困ることがない。
「小松島上等兵と接触後、新東京に向かったんだったな?変わりはないか?」
「新横浜で選挙があって市長だか領主だかが交代することになって混乱しているそうです。そのせいで足止めを食っているそうですが、油田に関する情報を入手したとのことであります」
「油田?場所が判明したのか?」
「それが、ちょっと妙な話なんですが、この世界では石油は石炭を絞って作るものが一般的なんだそうです。その石炭が採れる場所があると」
「絞るって・・・果物でジュースを作るんじゃないんだぞ」
「よくわかりませんが、そういうものなのかもしれません」
「・・・まあ、できたものが同じなら原料や製法はどうでもいいか。それで、油田?というか鉱山か?それがどこにあるって?」
「新富士の頂上付近だそうです」
佐多大尉は地図を広げた。小松島がジェムザに複製してもらったものだ。新富士は新東京のすぐ上隣に描かれている。
「新東京に向かわせたのは正解だったか」
「製油所の場所も知りたいところではありますが」
「直接買い付けることができるなら助かるな」
油田(?)があり石油製品があるのなら製油所と石油タンクがあると考えるのが自然だ。できれば内陸ではなく海沿いにあってほしいものだが。
「重油の買い付けに成功したら今度はどうやって運ぶかだが・・・タンカーなどあるはずもないしな」
「確かに、この世界の様子からするとワインのように樽に詰めて帆船で運ぶしかなさそうです。いっそこちらから取りに行った方が早いかもしれませんね」
「海図が手に入ればそれも現実的だろうが、そうなるとまたルイナンセー氏に頼るしかないか」
佐多大尉は顔を上げて、艦橋窓から外を見た。第三新東京港にはまだナナナミネー、デッチー、ナアグーの3隻が停泊しているが、昨日1隻増えていた。おそらく護衛のために手配された砲船であろう。何隻を集めるつもりなのかは知らないが、ある程度の数が揃うまでは出港しないはずだ。
「こちらは出港が決まってもすぐには動けんからな」
再び地図に目を落とす。図の一番上には「↑ハットカップ(?)」と記載がある。
「最終的にはここに直接向かうこともありうるが・・・」
一度完全に火を落とした機関を点検させているが、結果は芳しくなかった。一言で言うと、完全にガタが来ているのである。建造以来酷使しすぎたのだ。
「大陸の北半分が真っ白なんですよね」
「そうだな、ここらへん一帯に何があるのか一切描かれておらん。何もないならないでいいから、どうなっているのか知りたいとは思うが・・・まあ、今は些事だ」
佐多大尉はまた地図を畳むと、時計を見た。
「次の定時連絡で、金長らには地図と海図の入手も命じることにしよう」
「可能でありましょうか?」
「小松島があっさり手に入れてきたところを見ると方法がないわけではなかろう」




