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続いてルイナンセー側からの質問を受け付けようとしたが、全て朝霜の機密に関わることだったためひとつとして答えられるものはなかった。だが、最後にひとつ。
「弟とその執事を救助していただきましたが、他に漂流者はおりませんでしたか?」
「見かけませんでした、残骸のようなものはあったのですが」
「そうでしたか。ロックタートルとワイバーンのコンビに襲われて2人生き残ったというだけでも奇跡ですから仕方ありますまい」
「では、質問は以上でしょうか。」
「いえ、これは質問というか確認なのですが、貴艦はウシアフィルカスをいくつ載せておりましたか?」
「ウシアフィルカスとは何でしょうか?」
「・・・?」
佐多大尉は聞き覚えのない単語を聞き返しただけなのだが、通訳は一瞬不思議そうな顔をしてルイナンセーに伝えた。もっとも、ルイナンセーも佐多大尉の質問を聞いて首をかしげていたのだが。
「ウシアフィルカスは・・・その、ウシアフィルカスですが。何かと問われましても。失礼ながらこの艦は戦闘によってかなりの損害を出された様子ですが、ウシアフィルカスが十分に揃っていれば我が船団のような目に合わずに済んだのではと思ったものですから。」
佐多大尉はどう答えてよいか悩み、小松島のほうを見た。もちろん小松島もウシアフィルカスなるものが何なのか知るわけないので答えようがない。佐多大尉の沈黙を不機嫌と勘違いしたルイナンセーが言葉を重ねる。
「あいや、気を悪くなさらないでいただきたいのですが、確かに我々もウシアフィルカスが不足していてこのような犠牲を出したもので。アサシモのような強力な戦闘艦にウシアフィルカスが十分積まれていればもっと楽に勝てたのではと」
「いえ、本当にウシアフィルカスというものが何なのかわからなかったので、どうお答えしてよいものかと」
「ウシアフィルカスをご存じないと?」
不思議に思ったわけでも馬鹿にしたわけでもなく、本当に信じられないと言った様子でルイナンセーが身を乗り出す。
「では、いかがでしょうか。弟と船団を助けていただいたお礼に、ウシアフィルカスを差し上げましょう。と言っても我々にもあと2つしか残されておりませんので、そのうちひとつをということになりますが。」
得体のしれないものをくれるというので、佐多大尉は少々迷ったが、少なくとも弟の命を救った礼として贈るのにふさわしいものであることは確かなようだ。話の内容からすると怪物から船を守るための武器、もしくは防御用の道具だろうか。
「それと、水や食料等も必要であれば可能な限り差し上げます。本当の謝礼は帰国後にということになりますが、その先渡しというか手付のようなものと思っていただければよろしいかと。」
「いえ、そのようなものはお受けできません。海軍軍人として成すべきことを成したに過ぎませんから。ですがそのウシアフィルカスというものについては、後学のために見せていただいてもよろしいでしょうか。」
「構いませんとも。」
ルイナンセーは執事に命じ、ウシアフィルカスを朝霜に持ってくるよう伝えた。
「2つのうちどちらにいたしましょうか。」
「どれが残ってる?」
「シークとメテです」
「どっちもボロだが・・・まあ似たようなものか、シークでよい」
「かしこまりました」
このようなやりとりがなされたのだが、通訳はなされなかった。




