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小松島以外はロープ渡りに慣れておらず時間を要している。ただ待っているというのも時間の無駄なので、小松島は先にジェムザから姉の名前を聞いておき先に話しかけることにした。
「フィリノさんですか」
名前に反応し、解体の手を止めて女戦士が振り返る。
「・・・どこかで会ったことあったか?すまんが覚えがない」
「いえ、初対面です。妹さんの雇い主です」
「ジェムザの雇い主?あいつまだフリーだったのか、とっくに特定危険生物対策連携推進協議連盟基金に入ったと思ってたが」
「その基金の紹介で契約させてもらいました」
「あー?ああ、そういうことか。・・・船乗りだな?料理人でも医師でもない、船長でもないな。甲板員か見張り員ってとこだろ」
当たりである。見事に小松島の本業を言い当ててしまった。フィリノはまた魔物の解体を進めながら話を続ける。
「船乗りだって人間だから陸に上がるのはわかるが、わざわざこんなところまで来るってことは私に用事か」
「はい」
察しが良くて話が進めやすい。
「訳あって新横浜を回避したいのですが、新東京まで行く方法を知りませんか?」
「新東京?大陸の東端から西端まで突っ切るのか。手当たり次第に魔物ぶっ飛ばしていけばすぐに着く」
ばしゃーんと水音がして振り返ると、しらねが落水したらしい。たぶん大丈夫なので気にせず話を続けることにした。
「非戦闘員がいるので、安全な方法で」
「じゃあ地下だな。地下遺跡をひたすら西に進めば新東京だ。2日で着く」
一太郎が新大坂の対岸地下に巨大な遺跡があると言っていたが、それのことだろう。
「遺跡の中は安全ですか?」
「ところどころ崩れてたりするが、おおむね安全だ。魔物もいない。あいつら水を嫌うだろ?遺跡の動力源は水だから、本能で避けてるんじゃないかと思う」
「なるほど、辻褄は合いますね」
「何か所か紛らわしい分岐に気を付ければどうってことなく新東京まで行ける。まともな案内人を雇っておけば苦労はしないだろうよ」
「フィリノさんに案内をお願いすることはできますか」
「魔物がいないんじゃ行く意味はないなあ」
解体を終えたフォレストウルフの死体のうち、持ち帰らない部分をまとめながらフィリノは笑った。そのまま次の死体を解体するべく場所を変える。
「姉は見ての通り魔物を狩ることだけしか興味がないからな」
渡河を終えたジェムザが話に加わってきた。落水したしらねはやはりどうということもなかったようで、普通に自力で川から上がってきた。シチェルがタオルを渡してやっている。
「だけってことはないだろ」
「じゃあ他に趣味はあるのか」
「刃物研ぎ」
「つまり仕事道具の手入れじゃないか」
「料理だってできるぞ」
「狩った魔物をその場で保存食にするやつな。まあ上手いのは認める」
「さすがにそろそろ結婚を意識してる」
「パーティメンバー募集の間違いじゃないのか」
「夫兼相棒だ」
結局何をやらせても魔物狩りに行きつくようで、ジェムザはため息をついた。シチェルとしらねもようやくやってきて、会話の流れを聞き始めた。
「だいぶ話が逸れたんだが」
「あ、すまん。姉に遺跡を案内してもらう話だったか」
「まあ、嫌だとは言わんが・・・興味がある報酬を船乗りが用意できるとは思えんのでね」
「報酬ですか・・・つまり現金はお望みでないと」
「見ての通りもらっても使い道がないから貯まる一方でね」




