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「らしいぜ」
「だよなあ・・・」
シチェルの報告を聞く限り、やはり新函館行きは確定のようだ。ジェムザが地図を広げて解説する。
「地図上の距離だけなら一直線に北上するだけなんだが、道と呼べるものは全くない。新東京経由の海路だな」
「本当に他に行く方法はないのか?」
「厳密に言えば、ある。軍が使うルートだが、交代で24時間魔物と戦い続けながら直行することはできる。ただし馬車は無理だし、スタンピードで出てこないクラスの大型の魔物と多数遭遇する可能性が高い。全くおすすめはできない」
「確かにそれは無理だ。では新横浜を経由せず新東京に行くルートは?」
「すまん、それも結局思いつかなかった」
ここにきて手詰まりである。
「選挙の混乱に乗じて強行突破作戦が正解か?」
「正直そう思う。わりと出たとこ勝負になるがやむを得ない」
「あのー、ジェムザはん?あれが噂に聞くお姉さんですのん?」
しらねが話に入ってきた。指さしているのは対岸だ。見ると、赤いビキニアーマーの女戦士が薙刀を振り回して狼型の魔物を切り伏せたところだった。
「フォレストウルフ1匹撃破だな。・・・いや、すでに3匹、いや4匹?」
シチェルが視力強化で遠視し、詳しい状況を教えてくれる。
「・・・うちの姉だな、間違いなく」
「もう1匹やった。すげえな」
仲間が倒されても平気で向かっていくところを見ると、ディープのつかないただのフォレストウルフだろう。
「援護しなくていいか?」
「放っておいていい。姉はいつもあんな感じだ」
「どんな姉なんだ・・・」
と話をしている間に、飛びかかってきたフォレストウルフを空中で両断した勢いのままもう1匹を切り捨てるという離れ業をやってのけている。
「まさかと思いますけど、あの方がおったけん新大坂の被害が少なくて済んだーゆうことはあらしまへんわな?」
「あり得ると思う」
「えー」
スタンピード前に定点観測隊の隊員が、赤いビキニアーマーの女性に助けられたと言っていた。つまり、その時点でジェムザの姉はもう新大坂対岸にいたことになる。それからずっとひとりで戦っていたとすれば・・・。
「昔から体力馬鹿なんだ」
「いや限度と言うものがあるだろう」
あっさりとフォレストウルフを全滅させると、死体を解体するつもりらしく座り込んで作業を始めた。
「思ったんだけどよ、あの人なら森を突っ切って新東京まで行けるんじゃねーか?」
「行ってもらうだけなら金長たちに任せたが」
「いや、ちょっとは安全な道知ってんじゃねーかと」
「・・・ふむ?ジェムザ、どう思う?」
「魔物が多く出る地点などは把握しているかもしれない。逆にそれを避ければ、少しは安全に新東京まで行けるかもしれないな」
「そういうことならちょっと話を聞いてみるか。どうやって対岸まで渡る?」
貸しボート屋があったとしても、ロイテルと同様に跡形もない。地元民であるしらねにも心当たりはなく、梅ノ橋を渡るしかなかった。




