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「待たせた」
小松島は少し離れたところで待っていたジェムザとしらねのもとへ。
「話はまとまったか?」
「ああ、新東京にはあいつらに行ってもらえることになった」
「とすると、我々は何をすればいいんだ?」
「重油を安定して入手可能な手段を探す。品質はあれでいいそうだ」
「私が送ったやつか」
「そうだ」
ジェムザはドヤ顔になった。
「それともうひとつ。朝霜が入渠可能な整備施設が必要だ」
「そういえば、私はアサシモ号についてはほとんど何も知らんぞ?燃えながら動く船だということぐらいしか」
正しく伝えたはずなのに何一つあっていない。
「全長120メートル、全幅11メートル、吃水4メートル」
事故防止のため各数値を切り上げて伝える。
「・・・120メートル?そんなに大きいのか」
「それが入渠できるドックに心当たりは?」
「いや、私もそれほど詳しくはないしな。船員座で聞いた方が早いんじゃないか?いや、さすがにそのぐらいはやってるよな」
やってないかもしれない・・・。
「しかし、そんなものがあるとしたら心当たりは2か所しかないな」
「どこだ?」
「新東京と新函館だ」
新東京には金長たちが向かうので、小松島たちは新函館に向かえばよいか。
「どうせエトゥオロオプのアトイ商店を訪ねるんだ、嫌でも新函館を通過することになる」
「確かにそうだ。となると、新函館への道案内を頼むことになるな」
「心得た。ちなみに最短最速最安値のルートは新東京港からの船旅ということになるけどな」
結局新東京行きになってしまった。
「まあ、とりあえず今度こそロイテルに行くぞ」
「つくづく縁がなかったからな、あの店」
「ようやっと行けそうでんなあ。ほれ、封鎖も解除されとりますえ」
新淀川の堤防付近は、立ち入り禁止解除直後ということでまだ戦闘の痕跡が残っていた。というか、まともな建物などひとつも残っていない。人間・魔物問わず死体がひとつもないところを見ると、封鎖はどうやらその片付けが最大の目的だったと思われる。ロイテルの場所については梅ノ橋付近としか聞いていないが・・・。
「あ、梅ノ橋は無事でんな」
しらねの言う通り、ロープを張っただけの簡素な造りの橋は大規模な戦闘にも巻き込まれることなく残っていた。
「てぇことはこのあたりでっか」
「一軒も残ってないな・・・あ、おーいそこの人」
建物の残骸を片付けている・・・というか、残骸の中で探し物をしている人を見つけ、シチェルが声をかけた。
「このへんにロイテルっていう商店があったと思うんだけど、知らねーか」
「え、当店に御用の方ですか?」
「当店って・・・あんたロイテルの店員か?」
「はい、そうです。店はここなんですけど」
ここ、と言っても、柱であったのだろう焼けた木や、元が何だったのかすらわからないゴミしかない。
「あー・・・やっぱだめだったか」
「ええ、お店なくなっちゃいました。一応お探しの物をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「油なんだけどな。墨油とか重油とか言われる黒いやつあるか?」
「墨油でしたら時々仕入れておりましたよ。今の在庫はまあ、御覧のとおりですが」
「どこから仕入れてるかわかるか?」
「新函館の本店からですが、その本店がどこから仕入れているかまではわかりかねます」
「新函館かー・・・直接行くしかないか」




