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「これが主はんの船によお似とる船でっか」
しらねとシチェルにも、皇室海軍の艦の絵が回された。回されたというか、勝手に見たというか。
「似てるというか・・・いや、まあ似てるのか」
「よく知らんけど、船の中で火を燃やしたら進む船なんだよな?」
「そないなことしたら危ないんとちゃいます?船が燃えますえ」
この中で実際に乗船したのはシチェルだけだ。それも、動力の仕組みをちゃんと知っているわけではないので、きわめて雑な説明になっていた。
「じゃあやはりこれが煙突で、上の黒いやつが煙か」
「大型船なら火を使う調理室ぐらい備えていてもおかしくはないが・・・それで船が進むのか?」
一太郎とジェムザも改めて絵を見て、思ったことを口にする。
「お湯を沸かすと蒸気が出るだろ?その力で動くんだ」
しかし、小松島の説明もたいがい雑であった。
「ああ、ヤカンから噴き出すやつか。あれを帆に当てたら船は前に進む・・・進むのか?」
進みません。
松原屋を後にした一行であるが、ジェムザはまだ名案を思い付かないようである。
「まあ、この前出した報告書の返事を待つというのも選択肢としては間違いではないしな。その結果次第では今後の行動にも影響が出る」
「ちなみにリュージは、アサシモからどういう指示が来ると思ってるんだ?」
「そうだな、たぶんあの重油で購入可の指示が来るだろうから、そうなったらアトイ商店に渡りをつけて、十分な量を安定供給できるようにする」
「となると新東京の次は新函館、エトゥオロオプ島に渡ってハットカップ。大陸の南端から北端まで縦走してしまうな。ところで、この旅程は私が最初に聞いていた通りのものに戻っているんだが」
「言われてみればそうだな、元々そういう話だったような」
シチェルはまだしらねと内燃機関の船について話し合っている。火を起こして動く船となると、やはり植物系亜人のしらねは燃料のことが気になるようだ。火を起こす素材と言えばやはり木であろう。その話が耳に入ったからか、ジェムザの話もそちらに流れた。
「船の中で火を使うのなら、当然他に燃え移らないように気を付けないといけないだろう?帆船と比べて余計な人手がかかるんじゃないのか?」
「そのかわり、無風でも向かい風でもおかまいなしに進むことができる」
「確かにそれは大きな利点だが・・・ああ、それでその人手の話だが」
そちらが本題とは思っていなかった小松島は軽く驚いた。
「一太郎から聞いたが、新京都の内戦は事実上の停戦らしい」
「ほう、それはめでたい」
「それがそうでもないようだ。スタンピードが起きただろう?新大坂は無事だったが、その分新京都に魔物が流れ込んだらしくてな。人間同士で殺しあってる場合じゃなくなって停戦したそうだ。で、スタンピードが収まってみれば今度は死人が多すぎて戦争どころじゃないらしい」
これを平和と呼んでいいものだろうか。
「一太郎やその仲間らも皆失業中ってわけだ。そこで相談なんだが、火の魔法が得意な連中とか、アサシモで雇えないか?」
「ああ、そういう話のつながりだったのか」
一太郎がその「火の魔法が得意な連中」である。松原屋で一太郎と情報交換をしたときに、職探しについて相談を受けていたのだろう。
「だが軍艦というのはつまるところ巨大な機械だからな。部品の一部を人間に置き換えられるからって、はいそうですかとはいくまい」
勿論小松島は今の朝霜でサラマンダー族が発電任務に就いていることなど知るはずもない。
「無理か?」
「どう贔屓しても無理だろう。船員のほうが役に立つと思う」
「うーむ・・・あいつもこれから苦労するな・・・。だから特定生物対策基金に誘われたときに入っておけばよかったんだ」
「史上最短ぐらいに省略したよな今」




