119
「結果オーライゆうんは、こういう時に使う言葉なんやな」
「全くだ」
無駄に宿賃を払ってしまったと早合点したが、スタンピード明けの旅人座は大混雑で新規に投宿する部屋などなかった。各地から集まった冒険者たちが寝場所を得るために殺到していたからである。小松島一行はスタンピード前から部屋を確保していたので何も困ることなくベッド付きの部屋に入ることができた。
「おっしゃ、久しぶりにベッドで寝られるぜ」
「荷物整理したらすぐ行くぞ」
「えー」
主不在でも部屋の清掃はきっちりやってくれている。さすがに旅人座の直営店に手抜かりはなかったが、きれいに整えられたベッドに飛び込んだシチェルはお預けを食らって不満顔である。
「なんで戦いに出て帰ったのに荷物が増えてるんだろうな」
シチェルがもらったご祝儀と、死傷者から受け継いだ武器や物資である。
「いや、ふつう増えるだろ」
「増えますわな」
「せっかく魔物の素材取り放題だったのにちっとも手出ししないんだから変だよな隆二って」
「そうだな、4日も戦い続けたんだから持ちきれないほどの素材を持ち帰るのが普通なのにな」
「うちなんか奴隷やのに荷物持ちですらないんやで?手ぶらや」
どうやら小松島の方がこの世界ではおかしいらしい。
「いいから、いらないもの置いたらさっさと行くぞ。ジェムザ、ロイテルと松原屋って、どっちが近いんだ?」
「すまないが、松原屋のほうはどこにあるのか知らん」
「じゃあ先に松原屋、そのあとでロイテル見てみるか」
「店が無事やとええんですけどねー・・・」
「しゃーねーか、お休みはおあずけだな」
シチェルがしぶしぶながら立ち上がったので、出発となった。滞在時間3分である。
松原屋への道はあちこちが封鎖状態で、遠回りしーの迂回しーのを繰り返しす羽目になった。
「迷った」
「やっぱりか」
おまけに目印になる建物がなくなっていたり、逆に特徴的な構造物が設置されて街並みの印象が大きく変わっていたり。
「お、あっちみたいだな」
ジェムザが目的地までの道を見つけてくれたおかげで助かった。そのおかげで一行は無事に松坂屋にたどり着いたのであった。
「いや待てよ、松坂屋?」
松坂屋だった。
「ジェムザ、俺たちが行きたいのは松原屋なんだが」
「何?ここじゃないのか?」
一文字違いの別の宿屋に来てしまったのだ。完全に松原屋への道から外れてしまい、もはやリカバリー不可能である。
「出直すか?」
「隆二、一応聞くけど・・・旅人座に戻る道は把握できてるよな?」
「・・・わからん」
「えー」
「あの、主はん。多少の路銀を使うてよろしいなら手はありますが」
「どんな方法だ?」
「はあ、すぐそこに新大坂循環馬車の停留所がありますけん。お金はかかりますが旅人座には戻れます」
環状線の馬車版のようなものらしい。
「いったん出直すんでしたらそれでよろしおまへんか?」
「そうしたほうがいいかもしれんな」
仕切り直しとなった。が、それが幸いした。
「松原屋経由旅人座行き発車します!お乗りの方おられませんかー!」
「便利だな循環馬車・・・乗ります!」




