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朝霜から4人が出発したのとほぼ同じころ、スタンピードはようやく終息を迎えつつあった。
「ジョージトータスがいなくなってるな」
シチェルがいつもどおり木に登って状況を確認してくれている。もっともこの木も戦いの影響で枝葉がかなり落ちており、見た目がずいぶん変わっていた。
「あ、軍が堤防を越え始めた」
「てことはいよいよ掃討戦か」
「長ごう続きはりましたなあ・・・はふぅ」
しらねはその場にへたり込んだ。一方ジェムザは薙刀を担ぎ上げ出発の準備。
「さて、狩り放題の時間だが・・・行くか?」
「いや行かねーよ」
シチェルが即座に拒否した。
「魔物を追い払えたんだからそれでいいんじゃないのか?」
「稼ぎ時だぞ?本当に行かなくていいのか?」
「理屈はわかりますけんど、無理ですわー・・・」
「俺は一応任務中だしな。出張先で副業して荒稼ぎしてましたとか軍法会議になりかねん」
「勿体ないな」
冒険者だったころのジェムザならひとりでも行っただろうが、今の身分を考えて自重したらしく武器を収めた。
「そういえば、ピザ屋の夫婦はどうした?」
「営業再開の準備があるからゆーて、先に帰りましたわ」
「行動はえーな!」
「やるなあ商売人」
「あとこれ、トッピングの追加無料券くれはりました」
「本当にやるなあ商売人!」
「それはともかくだ。リュージ、掃討戦に参加しないならしないでいいとして、何をする予定なんだ?」
「朝霜から返事が来ないことには動きが取れん。松原屋にヒーナが馬車を届けてくれるのを待つのと同時に、えーと・・・何とかいう店にも重油があるらしいと聞いた」
「新淀川近くのロイテルはんですな。スタンピード最前線やで?店が無事とは思えへんけどな」
「・・・それもそうか。じゃあ無理か」
「一応現状を確認に行こう。あとは?」
「あとは・・・。いや、それだけかな」
とりあえず、やるべきことがあるというのはそれだけで心の支えになるものだ。ある意味現実逃避と言えなくもないが、前向きであることは悪くない。何せ、公園陣地から見える範囲だけでも被害の大きさがうかがえるのだ。数日前に初めて訪れた町であり愛着と呼べるものがあるわけではないが、それでも痛ましい光景は気を滅入らせるものだ。小松島たちは公園前陣地を担当する兵士の隊長に挨拶をして立ち去った。
「旅人座はどないなってますやろか」
「あ、そういえば宿賃返してもらうの忘れてた」
この黄泉の世界の常識。宿賃はひと月分前払いで、引き払うときに残額を返してもらう方式。
「最後に戻ったんはいつでっしゃろ?スタンピード前やから5、6日ほどになりますやろか」
「勿体ねーな・・・」
ともかく用事がひとつ増えた。まずはより近くにある旅人座に向かう。




