117 116話から2日後ごろの朝霜
「そうか、新大坂は今そんなことになっているのか」
「ジェムザさんにも会えずじまいだったぜ」
滝川は第三新東京港に到着すると、まず預かりものの手紙を船員座に届け、すぐに朝霜に戻って報告を行っていた。
「やむを得んか・・・。船員座に捜索依頼を出してみよう」
「見つかるといいけどな。でも、あの混乱ぶりからするとなかなか難しいと思うぜ」
「やれることはやっておかねばな。他にできることは何かないだろうか?」
佐多艦長は周りの乗組員に問いかけた。
「そうですな・・・やはり、正式に誰かを再派遣するべきではないでしょうか」
「小松島上等兵の捜索と並行して、ジェムザさんに重油の調達のため動いていただいては?」
「ハットカップで重油の入手が可能と判明したのですから、現地へ本艦を回航・・・は、よくありませんな。航路がわからない」
「それなら海図の入手を考えよう」
意見がいくつか出る中、伝令の兵が船員座から届けられたという手紙を持って艦橋に上がってきた。
「差出人は小松島上等兵殿であります」
「お、無事だったのか」
「今どこにいるんだあいつは。ああ、皆に聞こえるように読んでくれ」
伝令兵が手紙を開封し始めたが、滝川はもう自分の出番はなさそうだと感じ、艦長の許可を得て艦橋を離れた。そして、伝令兵が小松島の報告を読み上げる。まずジェムザと合流できたこと、重油の入手には至らなかったがジェムザが先んじてサンプルを朝霜宛てに送付したこと。新大坂で発生したスタンピードと呼ばれる魔物の大発生によって足止めを受けており、戦闘の合間にこの報告書を書いていて残弾わずかであること。たまたま立ち寄ったハーピー族の少年が第三新東京港に向かうというのでこの報告書を託したこと。船員座が崩壊したため、医師座のリトという男性が連絡の仲介を引き受けてくれたこと。
「小松島上等兵が危険ですな」
「うーむ、スタンピードというのがどの程度危険な現象なのかがわからんが、持たせた弾が尽きそうというのはただごとではない」
「やはり誰かを派遣しましょう。連絡や捜索ではなく救援のために」
「新大坂まで行ってもらうとするとどのぐらい日数がかかるのか、船員座に問い合わせたらわからんか?」
「調べます」
「派遣するとしたら誰を?」
「現地事情に詳しい者をつけたいが、新しく雇った連中の中におらんか?あとは便利屋の3人だ」
日峰、中田、金長の3人はいまだに配置が固定されていない。状況に応じて配置換えできる人員というのが便利すぎて佐多艦長は好きに使いまくっていた。
「園田外子という子供が、見た目のわりに賢いと聞きます」
「子供か・・・大人でおらんか」
「大人だとすでに艦内各部署で欠かせない人材になりつつありますが。だな?」
「ええ、皆よほど専門的なことでなければ任せられるようです」
「今更引き抜くとまた混乱を招くと具申いたします」
艦橋要員らが一斉に否定するので、佐多艦長も無下にはできなかった。
「では園田を案内役に、金長を隊長として日峰・中田。4名を派遣しよう」
「手配します」
この翌日、小松島がスタンピード前に出した報告書が届き混乱を招くことになる。




