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「助かったぜ、こちとら夜目が利かないからよ。このまま日が暮れたらどうしようかと思った」
「丸2日飛べるのか?ハーピー族って」
「俺ぐらいだろうな。スタミナには自信があるんだ」
ジェムザが意外に思うほどなのだから、例外的な存在なのだろう。
「ハーピー族が丸2日飛ぶとなると、ずいぶん遠くから飛べるよな?どこから来たんだ?」
「あ、いや、それがな・・・スタミナには自信があるがスピードはいまひとつなんだ。第三新東京港から来た」
「はえ?第三新東京港から丸2日かかりましたん?」
「う・・・ああ、そうだ」
「あ、昼間えらくゆっくり飛んでるハーピー族を見たけど、もしかしてあんたか」
「・・・たぶん俺だ」
かなり渋々だが認めた。ハーピー族の青年の名前は滝川ノスティ、名前から推測できる通りニッポン族とハーピー族のハーフだそうだ。昔から速く飛ぶことが苦手で、仲間のコミュニティから追い出され奴隷となり、今はとある軍艦の伝令係として使われているのだという。伝令係が鈍足でいいのかということは聞いちゃいけない。偵察兵なのに鈍足なのもいるのだから。
「なんか親近感わきますなあ・・・」
しらねがぼそっとつぶやいた。
「新大坂の船員座目指して飛んできたはいいが、肝心の目的地が消えてしまっていたってことか?」
「ああ、そうだ。仕方ないから戻るしかないだろうな、さすがにこういうときどうすればいいかまでは聞いてない」
「戻るならついでに頼まれてくれないか。新大坂から第三新東京港の船員座まで手紙を運んでほしい」
小松島は滝川に報告書の追伸を託そうと考えた。もちろん正規の手続きどおりに船員座を介して朝霜に配達してもらうのだ。
「リュージ、こちらから送るのはいいがどうやって返事を受け取る?」
「あ、そうか。船員座がないんだった・・・何かいい方法はないか?」
「一太郎のパーティに頼んだらどうだ。リトが医師座に入院中で動けないだろう?だから医師座のリト宛に返事を送ってもらえばいいんだ。手間賃を払う必要はあるが、あちらだって入院しているだけで収入になるんだから文句はないだろう」
「なるほど・・・」
リト本人に話を通す必要はあるが、現状最も合理的な案ではある。
「明日にでも話をしてこよう」
「タキガワはもう今夜は飛ばないんだろう?」
「ああ、一晩中飛び続けるだけならともかく夜間の離着陸は勘弁してほしい」
「ならリュージは今夜のうちに報告を書き上げるといい。その間魔物の襲撃がなければいいんだが、そればかりは運だな。まあたぶん・・・あると思うが」
最後の一言は言わないでほしかった。
「というわけだが、頼んでいいか?」
「ああ、構わないが・・・代金はこれと一晩の休憩場所代でいいぜ」
滝川はもらった水と食料を持ち上げて見せた。
「それじゃあ」
「警戒!正面入り口!」
魔物襲来の合図だ。ジェムザはすぐに薙刀をつかんで飛び出していった。
「滝川はしらねといっしょに隠れてろ、魔物が飛び込んで来たらなんとかしてくれ!シチェル、いつも通りやるぞ」
「あいよ」
小松島とシチェルは半身を隠したまま狙撃に徹するが、夜戦である。遠視魔法にも限界はあるし、それもない小松島はできることがあまりない。
「思ったよりつらい戦いかもしれんぞ」




