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持ち場に戻ると、シチェルがまた木に登っていた。
「川原の戦況は?」
「あんま変わってねーな」
つまり防衛戦闘は順調ということだ。
「ジョージトータスが増えてるぐらいかな」
「あれの撃破は無理だろう」
最初から無視していても害がないのは、でかすぎ・重すぎて堤防を越えることができないからである。せめて動きが早ければ体当たりで突破することもできるのだろうが、しょせん亀の足なのでそれもできない。したがって、新大坂に限ってはジョージトータスは脅威たりえなかった。
「思ったより余裕がありそうだからしっかり休んでおけ、4日は続くんだからな」
「あいよー」
シチェルはくるりと幹をひとまわりして降りようとしたが、そこで何かに気付いて動きを止めた。
「どうした?」
「なんか飛んでくる」
サイレントイーグルに限らず、空を飛ぶ魔物は数が少ない。なのでこういうときはまず有翼人種の可能性を考える。
「ハーピー族にしては遅いな・・・ニュート族だとすると小さすぎる」
「ガーゴイル族の可能性は?」
「にしては羽ばたきが綺麗なんだよな・・・もう少し近づいてくれば見えるんだけど」
シチェルの遠視魔法でも見極めきれない距離のようだ。ならば脅威ではないだろう。
「交代で食事にするぞ。シチェルは後でいいか?」
「おー」
「ならジェムザとしらねが先に食べるといい」
「わかった、そうしよう」
「ほなおさきに」
本来ならウラシマ祭り真っ最中のはずなので、新大坂には十分な食料があった。それも、わりと日持ちしないものが。それらを供出させたり買い取ったりしたものが配布・販売されていたので購入してある。ジェムザは適当なパンをつかんでかぶりついた。
「なんだこれ、パンの中に餅が入ってるぞ」
「あ、それ新大坂の名物で、イルクーツクいうお菓子ですすねん」
どういう経緯でそう名付けられたのだろうか。
「ジェムザはんも知らへんような隠れた名物やったとは。あ、餅の中にさらに何か入ってますやろ?」
「・・・いやまあ、まずくはないが・・・練りバナナ入れるのかよ・・・」
「おおー、そら大当たりや」
冗談なのか本気なのかがわからない。
「うちのおすすめは大根おろし入りや。ちょう物足りん程度にあっさりしとるんがええ塩梅なんよ」
「何でも入れるんだな・・・」
木から降りてきたシチェルと小松島がとりあえず次の戦いに備えて待機となる。
「朝霜に報告書届いたかな?」
「さあな、この混乱ではもしかすると届いていない可能性もあるが・・・どのみち当分動きがとれないな。新大坂で待機するなら重油の購入ルートを探しておきたいが」
「うちの店じゃダメなのか?」
「ジェムザが手に入れたサンプルが使い物になるかどうかは朝霜の機関員でないとわからんからな。使えるとしたらどうやってハットカップまで買いに行くか?もしくはどうやって持ってきてもらうか?使えないとしたら他に重油の当てはないか?念のためで調べておくべきことがいっぱいある」
「つまり当分旅が続くのか」
「・・・なんで嬉しそうなんだお前」
「何でだろうな」




