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魔物の襲来は昼過ぎにはいったん途絶えた。フォレストウルフだけで100匹は超えていただろうか。
「大休止できるな」
全員が数時間戦い続けたわけではない。交代で休憩しつつ魔物の襲来を防いでいたのだ。現在のところ公園陣地に負傷者はいなかった。
「今のうちにやっておくべきことはあるが、まずは補給といこう。リュージはまだいけそうだな?」
「米軍の空襲よりは楽だったぞ」
「ベー軍は知らんが余裕があるなら待機だ。しらねが辛そうだから先に休ませる」
しらねは元が付く上に斥候とはいえ傭兵経験がある。シチェルがサイレントイーグル撃墜のご祝儀にもらったものの中に短剣があったのでそれを振るってワームホールマウスを2匹仕留めていた。自慢できるような戦果ではないが、間違ってもお荷物にはなっていない。とはいえ数時間戦い続けた疲労が相当来ている様だ。
「医師座まで行くか?」
「いえ、ここでよろします」
手足を投げ出してへたり込んでいる。
「ほい水」
シチェルは少々疲れが出てきたという程度か。給水所まで往復してもなんともない程度には余裕がある。しらねはシチェルから水を受け取ると一気に飲み干した。
「たぶんもう少ししたら、この魔物の死体を運ぶ仕事が始まるからな」
「魔物の死体の処分は動物の死体とは扱いが違うのか?」
「いや、ほぼ変わらない。素材として使えそうなものをはぎ取ることはあるが、今回はそれどころじゃないからどこかに集めておしまいだろうな」
「戦況をどう見る?」
「まだ当分は安定だろうな。川岸の戦況を見てみたいが下手にここを動くわけにもいかんし」
ジェムザは高台から医師座周辺の軍の様子を観察し始めた。みるみる口角が上がり、機嫌がよくなっていくのが見てわかる。
「さすがプロだ・・・違うなあ」
「ん?」
小松島も見てみるが、ただ休憩しているようにしか見えない。
「休みながらも警戒に手抜かりはないのはわかるが」
「医師座の向こうの交差点」
ジェムザに指摘された場所にはバリケードが築かれている。これが適当に物を積み上げただけではないことぐらいはわかるが、隙間が多くて魔物の侵入を完全に防げる代物ではない。
「フォレストウルフならすり抜けられる程度の隙間があるだろ?あれを利用して魔物の流入を制限しているんだ。完全に防ごうと思うと資材も時間も膨大になるからな。処理できる程度の魔物をあえて通過させて叩くようにしているんだ」
「なるほど」
「しかもそんな関所をいくつも作って魔物の圧力が一か所に集中しないように工夫してある。これはすごい技術だぞ。他国の軍と比較してもこれほど練度の高い隊は容易には見つからんだろう」
大興奮であった。
「となると当分こちらには魔物は流れてこないな。思った以上の大休止がとれそうだ。目安として、医師座の守備隊がのんびりしてる間は安全だ」
「そういう情報って軍と互いに共有したほうが効率よくないか?」
「それは我々冒険者が一方的に得するだけだからな。軍に旨味がないから情報だけくれと言っても無理な話だ」
「共闘できれば互いの利益になるだろう?」
「さっきアクアウルフに群がってた素人の連中を見ただろ?あれらと共同戦線張ったらどうなるかわからんか?」
「・・・なるほど、わかった」
つまり、足を引っ張られないように軍は冒険者たちと距離を置いているということだ。自分やジェムザはともかく、朝方のあの醜態を見た後ではジェムザの意見に納得せざるを得なかった。




