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帆船の甲板から梯子が下ろされ、朝霜の第一煙突横あたりから乗り移れるようになった。朝霜艦上はいつでも発砲できるように備える者や当初の命令通り救助活動をつづける者、朝令暮改の命令についていけず右往左往する者などでごった返していた。その中をかきわけて小松島に近づく者がいた。
「Netupayk!uziirup ukiet iim!」
先ほど救助した漂流者だ。
「ああ、あんたこの船から落水したんだな?」
「Ruinantoka!」
頭上からの声は小松島への呼びかけではなく、この漂流者への呼びかけだったようだ。彼は声の主を見上げてすぐに反応を見せた。
「Aazarub!Umia ugnibir!」
「Iippah ulot iib ubiara uuy!」
親しい間柄であるらしく、再会を喜んでいるのであろうことがうかがえた。これなら小松島が帆船に乗り移っても捕らわれたり殺されたりすることはまずあるまい。
「行くぞ、ついてこい」
小松島は声をかけると梯子を上り始めた。中田が続き、そのあとに漂流者とその従者らしい人物が続く。難なく上り切り、小松島と中田は帆船の甲板に立った。
「大日本帝国海軍第一遊撃部隊第21駆逐隊朝霜の・・・艦長代理、小松島隆二であります」
名乗って敬礼する。艦長と偽るのは気が引けたので、ちょっと悩んだ末に代理と付け足しておいた。
「ベスプチrengo州国オイワryosyu、ルイナンセー・ヴェルモットdesu。ヨロシク。そして、otootoをtasukeてクレたこと、kokoroよりカンシャしマス」
ベスプチ連合州国。小松島も中田も聞いたことのない国だ。そしてryosyuとは領主のことか。だとすると公人であることは間違いないが。
「って、弟?」
「ハイ」
「Aazarub!」
2人に続いて梯子を上ってきた漂流者が、船長に駆け寄りその手を取る。
「Ruinantoka・・・umia oddarug・・・」
「Em oot、Aazarub」
漂流者は船長の弟だったようだ。大切な身内を助けてくれた朝霜に、ルイナンセーが深く感謝しているのだろう。
「スグニでもカンシャオレイしたいのデスが、今はtaihenデス」
「溺者救助を優先します」
「デキ・・・?ワカリマセン」
ルイナンセーの日本語力はそれほど高くないようだが、救助活動の様子を指さすと「デキシャ・・・ugniuorod nam!」と納得していたようだから意味は通じたのだろう。小松島と中田は一旦辞し、救助活動終了後に再度乗船することを約束するのに30分ほど費やす羽目になった。




