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「おー、見える見える」

シチェルは公園で一番高い木に登り、遠視の魔法を使って新淀川の対岸を見ていた。

「すげーぞ、フォレストウルフだけで100頭ぐらいいる」

「あれ?そんなもんどすか?」

「まだ本格化するのは明日ぐらいだからな。今日のところはそんなものだろう」

スタンピードの規模の大きさに驚くシチェルと、予想したほどではないことを意外に思うしらね。ジェムザの意見を聞く限り、しらねの感覚の方が正しいようだ。

「ジョージトータスの姿が見えるようになったらいよいよってところだな」

「じゃあやっぱり今日行かせといて正解だったな」

シチェルたちは公園に立てこもってスタンピードをやり過ごす計画だが、こもるにはさすがにまだ早すぎた。今日のところはまだ下見である。3人を残して、小松島は医師座入院中のリトのところを訪れていた。

「ともかく、あんさんも無事でよかったわ」

「お互いに災難だったな」

「一太郎はんのところは行きなすった?」

「あなたとジェムザが生きていると知る前に。今日これから生存報告に行こうかと」

「せやかてスタンピード起きますやろ?一太郎はんは志願しとるんとちゃいますか」

「・・・確かにその可能性は」

ある意味で稼ぎ時ともいえるこの機会を、冒険者である一太郎が見逃すとは考えにくい。もしくは逆に避難民の護衛に志願して新大坂を離れている可能性もある。どのみち、松原屋に行っても会えない可能性は高い。

「まあ、もし会えたらでええさかい。わいが医師座に入院しちょるて伝えといてもらえまっか」

「伝えよう」

見舞いは短時間で済んだ。小松島は念のため一太郎の定宿である松原屋に向かうと案の定不在であったが、出かける先を書き残してくれていた。

「新東京へ向かったのか・・・」

ヒーナに充てたメッセージも残っており、小松島に馬車を引き渡してリトを見つけたら新東京まで追いかけてくるようにとあった。この3人は案外別行動が多いのかもしれない。松原屋の次は、念のためロイテルに向かってみたものの、わざわざスタンピードの最前線に近づくことになる。新淀川の近くは渡河してくる魔物を阻止するための軍が大急ぎで防備を固めている最中であり、見物人と思われ追い払われてしまった。

「まあ、無理もないか」

と納得しておいて、ようやく小松島は医師座の隣の公園へと戻った。


公園に籠って戦おうと考えたのは小松島一行だけではなく、少しずつ人数が増えてきた。戦い慣れていそうなベテラン冒険者グループもあれば、昨日まで普通の新大坂市民だったとおぼしき一家の姿もあった。

「まさかそれで戦うのかよ」

どう見ても料理人にしか見えない中年夫婦を見かねてシチェルが声をかけた。シチェル自身それほど戦闘力が高いわけではないが、それにしてもその夫婦の装備は目に余る。夫の方は腕ぐらいの太さ・長さの棍棒、妻の方は包丁の両手持ちだ。これで魔物と戦うつもりなのか。

「これしか家になくてな」

「旅人座に行けば短剣ぐらい貸してくれるぞ」

「普段ならそうかもしれないけど、今は無理じゃないかしら」

確かに、今は全て貸し出されて在庫切れでもおかしくない。

「それに、これが使い慣れてるからな」

「それにしてもその装備は無茶だぜ」

「ピザ屋が石窯置いて逃げ出したら生きていけないからな。野垂れ死ぬか、スタンピードをやり過ごすかの二択だ」

「ピザ屋と結婚した時点でそうなるのは覚悟していたわ。あ、お店はイーストナリィよ。竹林を目印にしてコンスタンツェのピザ屋で探してもらえればすぐ見つかるわ」

「あ、そーすか」

「建物がなくなっても燃料の竹と石窯はたぶん無事だろうから食べに来てくれ」


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