106 95話ごろの朝霜
「すァーセン!アーサーシーモゆう船はこちらでっしゃろかー!」
金長一等兵が頭上を見上げると、ハーピー族がひとり羽ばたいていた。滝川で見慣れているため、特に驚くこともなく普通に応対する。
「朝霜なら本艦で間違いないが」
「おーとったかー、速達のお届けでっせ!ハンコよろ!」
足で投げて寄こされた荷物をかろうじて受け止める。危うく海に落っことすところだった。
「ハンコ・・・?」
どうすればいいのかわからなかったので、荷物を持って艦橋に移動。日本海軍の受領印で事足りた。配達員のハーピーはすぐさま帰っていった。
「で、差出人は?」
「えーと・・・ジエムザさん?ああ、小松島上等兵殿の現地案内人です」
艦長だけでなく、艦橋要員が皆集まってきてしまった。
「開けてみろ」
と命ぜられたので開封してみると、黒い液体が入ったガラス管と手紙が出てきた。
「これは・・・重油か?」
佐多艦長はもちろん一目で液体の正体を見抜く。これは直ちに開封し品質を確認するよう手配された。金長は手紙を広げて中身を確認し始めた。
「えーと、小松島上等兵・・・殿が、行方不明?!」
「なんだと!」
「新京都で内戦に巻き込まれ、シチェル共々川に流されて消息が掴めなくなったとのことです」
「本当にそう書いてあるのか」
「はい艦長。・・・捜索を現地の軍や座に依頼してあるとのこと。で・・・えーと、小松島上等兵殿の任務である重油のサンプルの入手を代行し、確保成功したので送付するとのこと。また、確実に送達するために別便でも発送済みで、同内容の手紙を同封してあると。以上であります」
ジェムザの配慮の深さには感謝するものの、特別任務に従事させた乗員が行方不明とあっては放置できない。
「誰かを現地に送らないといけないが・・・新京都とはどこにあるんだ?」
艦長の疑問に答えられる者はいなかった。
「当地で雇用した者たちであれば誰かが知っているのでは」
との提案が採用され、手近にいた数人の現地人が呼ばれてやってきた。新京都の場所と現状については全員がほぼ一致した見解を示す。要するに、案内人なしの陸路で訪問するのは危険すぎるということだ。
「陸路では危険、か」
「別の案内人を雇いますか?」
「いや、つまり空路なら問題ないのであろう?滝川を呼んでくれ」
実際に郵便が届けられたのだから、ハーピー族なら飛んでいけるのだろう。滝川ノスティが呼び出された。
「手紙によると、ジェムザ殿は新大坂の船員座で待機してくれているらしい。そこまで飛べるか?」
「丸一日はかかるぜ。俺、飛ぶのがのろいからよ」
「間で休憩が必要なのか?」
「新大坂まで飛ぶんだろ?となると・・・新横浜で一泊したいな」
新横浜の地名も佐多艦長はわからなかったが、現在位置と新大坂の中間地点ぐらいだろうと推測した。実際はかなり新大坂寄りなのだが。
そして、重油の品質チェックも完了し結果が報告された。
「本艦で使用する燃料と比較しても遜色なし、か。よし、可能な限りの量を仕入れるように命令書を書くから、よろしく頼む。誰か路銀を用意してやってくれ」
千円金貨が用意された。
「・・・ちょっと待ってくれ、いくらなんでもこれは預かれない」
何せ戸建ての家が買える金額である。
「重油の購入代金も含まれているんだからこのぐらいいるだろう」
「落っことしたらしまいじゃねーか」
「とはいっても、これより小さい現地通貨はないしな」
「あとは小松島上等兵に持たせた金塊が3つ残ってますが」
「両替してもらえよ!」




