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さらりとジェムザが告げた内容に、一同は一時硬直することとなった。
「・・・姉いたのかよ」
「いちゃ悪いか」
それはともかく2人といない改め3人といない特徴を備えた戦士がジェムザの姉で、それがスタンピードのただなかに取り残されているとすると・・・。
「助けに行くべき、なのか?」
「いらんだろう」
これまたあっさりとジェムザが告げる。
「姉は魔物と戦うのが大好きだからな。私よりいい腕をしているが、特定危険生物対策・・・基金専属派遣職員になると自由に狩れなくなるという理由で断ったぐらいだ」
「なんかだいぶ省略しなかったか」
「そういうわけだから好きにやらせておこう」
シチェルのツッコミは完全にスルー。
「とりあえず私は本業に戻ろう。つまり、リュージの護衛兼ガイドだ。新大坂から立ち去れないというのなら、反転攻勢や遅滞防御ではなく拠点防衛に参加することを勧める」
ジェムザは壁に掛けられた地図を指しながら説明を始めた。
「スタンピードに対抗するには、まず魔物を本来の住処から出さないようにして落ち着きを取り戻すのを待つ手がある。が、言うは易しの典型だからな。新大坂はこれに適した地形だからいいが、普通はやらない」
新淀川は地図を上下に分断するように描かれている。まさに天然の防衛線だ。もっとも、人類側が攻め込むのにも適しておらず、スタンピードの予防を妨げる効果もあるのだが、そのための定点観測隊ということだろう。
「次に、あふれ出た魔物の数を減らして被害を減らす戦術がある。新大坂では向こう岸に渡らず、こちら側で戦うことになる、必然的に防衛線は薄くなり、効果は少ない」
死守と違うのは、素通りした敵を無視するという点だ。敵の殲滅を最初からあきらめて数を減らすことにのみ注力する。適当にあきらめるという高度な判断力を持った戦士はそうそういるものではない。
「で、これらの戦いで撃ち漏らした魔物が新大坂になだれ込む。これと戦おうって話だな」
「拠点防衛って言ったな?その拠点はどこだ?」
「軍が決めることだろうが、大方の想像はつく。医師座と旅人座は間違いなく最重要拠点扱いになるだろうな。あとは・・・そうだな」
ジェムザは地図の数か所を指で叩いた。特徴のある建物ではないが、魔物の流れを効果的に妨害できるポイントとしての提案だろう。
「それと・・・」
最後にもう一か所。
「あ、新通天閣やな」
「そうだ。あそこは物見台として最適な位置と構造をしているからな。とはいえ、これらの拠点は軍の正規兵が固めるだろうから、私たちが行くとしたらここを勧める」
医師座からほど近い丘の上の公園。地図上では名前すら記載がない。
「最悪の場合、遊歩道を通って医師座に逃げ込める。地味に高台だから魔物が来るまで時間が稼げる。柵と植樹によって侵入経路が限られるから、限られた防御手段を無駄遣いしなくて済む。遊具がそのまま防御陣地として使える。まあ、そんなところだ」
「で、何日持ちこたえたらいいんだ?」
「スタンピードは1週間以上続いた例がないからな。最長でもそのぐらいだし、新大坂の防衛体制なら長くても4日というところじゃないか」




