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わずか数メートルの差ですれ違うというのは先日一太郎との間でやったばかりであるが、それをまたやらかしたというだけの問題ではない。今回は第三新東京港方面への避難組を見送った直後のことである。あと5分早く会えていれば・・・と思わざるを得ない。
「ずいぶん遅かったじゃないか」
ジェムザは普通に待ち合わせをしていたかのような軽いノリで歩み寄ってきた。
「えーと・・・ジェムザはどこに流されてたんだ?」
「気が付いたら新大坂近くの遊水地にいてな、待ち合わせ場所は新大坂だってわかってたからこれは好都合だと思ってすぐにここに来たんだ。小松島なら新大坂まで来られればすぐに船員座に来ると思ってな」
すぐどころか、最後にたどり着いたのが船員座である。しかし言われてみれば旅人座で保護を受けるよりも船員座でサービスを利用する方が手っ取り早かったのだ。朝霜への連絡もすぐに行えたはずだし、補給も受けられるのだから。
「そっちはどこまで流されたんだ?」
本当のことを答えるとジェムザが真顔になった。
「一太郎とヒーナも無事だったか」
「今は何をしているのかわからんぞ。案外スタンピード阻止部隊に志願しているかもしれん。で、リトは?」
「あいつなら医師座だ。命に別状はないがケガが多くてな。入院療養中だ」
これまたすれ違い。上下方向とはいえやはり数メートルの差である。ジェムザはリトと共に流れ着いた後、ただちに新大坂に入っていた。が、リトは数か所の骨折という状態であり、動き回ることなどできるはずもない。やむなく医師座を頼って入院させてもらった。ジェムザはそのまま船員座に出向き、掲示板に小松島あてのメッセージを残した。
「残した・・・んだが、見てないんだな」
「すまん。船員座に来たのもついさっきなんだ」
「本業が船乗りから冒険者に変わりつつあるな」
と言われても仕方がない痛恨の判断ミスである。
「それはそうと、本来の目的である油なんだが。昨日国分寺商店に行ったらちゃんと売られてたから、誰かに買われる前に買っておいたから安心しろ」
「ん?ジェムザが買ったのか」
小松島が今日の昼頃に買いに行くと前日に売れてしまったとのことであったが、どうやら買ったのはジェムザだったらしい。
「で、重油は今どこにあるんだ?」
「昨日のうちにアサシモ号宛てに送っておいたぞ。早い方がいいと思ってな」
「あー・・・それはすごく助かる」
助かるのだが、ことごとくジェムザの後追いで無駄足を踏んだことを考えると少々複雑な気持ちであった。
「なあ、本来の目的を果たせたんで忘れかけてるみたいなんだが、スタンピードどうすんだ?」
「ああ、そうだな。ジェムザらしい人物が対岸にいるみたいだと聞いてここに残ることにしたんだが、本人が見つかったから・・・どうしよう」
「避難民の集団脱出はほとんど終わってもーてます。新横浜行きが明日もう一回出るみたいやけど、それ以外はないみたいなんで自力で脱出せなあきません」
「いや、朝霜からの回答を受け取るならここに残るしかない。脱出という選択肢は消えた」
「ああ、確かにそれだけは私の失敗だったな。それがなければさっさと新大坂を出られたのに」
「不測の事態だ、仕方ないだろう。それに、一太郎はともかくヒーナが戻ってくるしリトは動かせない。どのみち新大坂で身動きが取れないんだ。となると、残って何をするかなんだが」
隠れるか、戦うかの2択である。
「私に似た人物というのは何のことだ?」
「ああ、定点観測隊が赤いビキニアーマーのナギナタ使いに助けられたって言ってたんだ。そんな特徴的な人間が2人といるはずがないと思って、てっきりジェムザだと」
「確かに特徴的だが、もうひとりは知ってるぞ。私の姉だ」




