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船員座も町中以上に混雑していたが、混乱は見られなかった。各方面への避難を希望する人たちを取りまとめ、集団で移動させる手はずを機械的に進めていたのだ。新大坂においてスタンピードは想定された自然災害であり、マニュアルが作られ訓練も繰り返し行われていたためだ。郵便受付の窓口も、行列こそあるものの正常に機能していた。

「第三新東京港に手紙を出せるか?」

「はい、お預かりいたします」

走り書きの報告書となってしまったがやむを得ない。新大坂で入手を予定していた重油が先に買われてしまい入手不能となったこと、案内人として雇っていたジェムザが水難事故で行方不明となったが手掛かりが見つかったため新大坂に滞在しなければならなくなったこと、その新大坂がこの報告ののち魔物の集団に襲われ戦火に巻き込まれるであろうこと。この3点を手短に記しておいた。

「隆二、やっぱりあったぞ」

「市街地の防衛隊だけやのうて、対岸に渡っての漸減作戦参加者の募集どす」

シチェルとしらねに探してもらったのは、とにかく新淀川の向こう側に渡る方法だ。個人で渡るのはほぼ不可能なので、渡る集団に同行させてもらおうと考えたのだが、やはり募集はあったようだ。

「第三新東京港方面脱出、最終便出まーす!」

船員座の職員が大声でそう周知している。小松島の報告書を含む郵便物もこの最終便と共に朝霜に届けられることだろう。

「三八式の弾数には限りがあるからな。あまり無理はできんが」

「いざというときだけしか撃たないように気を付けるぜ」

「うちは偵察に志願した方がええやろか?」

「別行動は避けたい、すまんが特技を生かせる場面には行ってもらえない」

「はいな」

しらねは小松島の所有する奴隷なのだからジェムザを探して連れてこい、とだけ命令すれば済むのかもしれないが。さすがにそれをする気にはなれなかった。

「三八式で巨大犬ぐらいは仕留められることが昼間に確認できただろ。他にどんな敵がいるのかわかるか?」

「さあ・・・定番どころだとネズミのでっかいのとか、クマのでっかいのとかだろうな」

「でかいってどのぐらいだ?本物の3倍ぐらいか?」

「魔物の種類にもよるけど、そのぐらいとちゃいますか?うちが知る限り、スタンピードゆうのは上位の魔物より下位種の数の多さが脅威やけん」

「まあそんな感じだよな。一番でかい魔物でも、10メートル級のイノシシ、メガアースボアぐらいだろ」

ぐらい、というのは大きすぎる気がするが。

「ファイヤボアは上位種やきん、たぶん出てきませんやろ」

「だな」

シチェルとしらねは詳しくないまでもある程度は知っているらしく、ふたりで情報のすり合わせを始めてしまった。

「新横浜方面、本日の最終便出ます!まだ脱出を希望される方は明日の便をご利用ください!」

「新東京方面出発します!」

次々と避難民の集団が船員座を出ていく。座の中が閑散とし始め、視界が開けてきた。

「・・・いやいやいや」

「いくらなんでもそれはない」

「あたー・・・こういうこともあるもんなんやな・・・」

小松島たちが呆けたのも当然だった。

「なんだ、やっと来たのか」

混雑が解消され、人の数も少なくなった船員座。小松島たちがいたのと反対側の壁際に、ジェムザがいた。


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