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「ハットカップではまあまず起きないからあたいも聞いた話でしかないんだが、魔物は普段決まった生息域から出てこないのは知ってるよな」

小松島はぽかんとしている。

「知らねえのかよ・・・」

「まあ、そのへんはよろしいやろ。スタンピードいうのは、その普段は出てこんはずの魔物が生息域から溢れる現象のことや」

「あれか、野生の熊が餌を求めて人里に下りてくるようなものか?」

「それに近いな、ただ魔物だから餌が目当てじゃないのは確かで、目的はわかっていないんだ」

「暴れたいから暴れとるだけやゆう学者はんもおるな」

とりあえず、人間にとっては迷惑な話だということは伝わった。

「レベル4ってのは?」

「スタンピードの規模を表す指標だよ。たしか、レベル3でもう全員避難しなきゃいけないんじゃなかったか?」

「せや、レベル4となるともう間に合わんから逃げるより隠れた方がええということになっとるな。レベル5やとそれすら無意味やけんあきらめろとか言われてはる」

今回はレベル4だから逃げても手遅れということになるか。

「じゃあ俺らはどうしたらいい?」

「・・・さすがにあたいも初めてのことだしな。どうしよ」

「馬車がもんてけーへんきん、逃げぇ言われてもあきまへんやろ。避難所探して入れてもろたほうがええでっしゃろ。たぶん医師座でも旅人座でも手配できるんやないかと」

「ああ、新大坂ではちょっと事情がちがいますよ」

医師座の職員が話を聞いて割り込んできた。

「新淀川が魔物のほとんどを抑えてくれるんで、レベル4でも軍と冒険者で十分対処可能なんです。スタンピードの警戒レベルについては、だいたいレベルを2つほど差し引くといいかと。たぶん今日中にでも旅人座で戦闘員急募の知らせが発表されますよ」

そういえばしらねが梅ノ橋についてそのような解説をしていた。

「にしても、2日前に知らせるとは。観測隊ももうちょっと早く通報してくれませんかね?」

と、床に寝かされている青年に話を振る。

「もちろんそうするはずだったんだ。だが、通報時に使うボートがなくなっていてな」

「ボート?」

「こういうときのために森林側の岸に係留してあるんだ。それを使ってすぐに通報するはずだったんだが、いつの間にかなくなっていたんだ。1日以上探したが見つからず、どうにか渡ろうとしていたらフォレストウルフどもがスタンピードの前哨として現れて、襲われてな。それで仕方なく梅ノ橋を渡ったんだ」

そのボートに心当たりがある者3名がここにいた。

「ボートが流されたんですか?」

「どうも誰かが勝手に使ったようだ。係留ロープは丁寧にほどいて片付けられていたからな」

小松島はそのボートの係留ロープを切ったりせず、丁寧にほどいて片付けたのだ。

「ひどいやつらがいるもんだ」

「全くだ。そのせいで俺は溺れるし、市民は危険にさらされるし」

シチェルがそっと小松島を引いて、観測隊の青年たちから距離を取る。

「なあ隆二。黙ってようぜ」

「当たり前だ」

聞こえないように小声でやりとりする。


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