梅雨の日
雨だらけの夜、買物帰りに傘をさしてぱちゃぱちゃと歩いているのはどうも不快だ。生暖かく湿った空気を(しかも濃厚なねっとりとしたやつを)肌で感じるのはどうもよろしくない。ああ、よろしくないとため息をつきつつ俯き加減に歩いていたら、僕の視界を恐ろし気な影がずぅいとばかりに横切った。大いにびっくりした。でも次の瞬間、自分の影だということが分かってほっとした。街灯の下を歩いていたものだから、進むにつれて光が後ろから来るようになって、自分の影がむくむくと前方に生えてきたわけ。簡単なことだ。おまけに僕は傘をさしている。大きな笠を被った僕の奇怪な影、その影が地面を這いずる姿に僕は恐怖した、ということなんだ。ごくごく簡単なことだ。けれどやっぱりさっきのあの影はまるっきり化物だった。きっとこの生暖かいべとべとした空気のせいだ。こんな濃厚な液体じみた空気の中にいるせいだ。だからあんな風に見えてしまったに違いない。
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今日も雨、水たまりをよけながらひょいひょいと歩いていたら、所々にでんでん虫が呑気そうに這いまわっていた。(僕の目にはじっとうずくまっているようにしか見えなかったんだけど)奴さん達、今まで一体どこにいたんだろう。晴れた日、太陽の光がぎらついているような日にはどこにいたんだろう。街路樹でこんもりと、すっかり厚く、濃い緑になった木の葉に日の光が乱反射して熱波が逆巻いているような日中、どこに隠れていたんだろう。木陰の湿った土の中なんだろうか。全てが熱く輝いているような晴れた日、いじけたように土中にもぐっているのかな?それにしてもここに今いるでんでん虫、そんな風には見えないね。雨中のこのでんでん虫たちはあくまで呑気なんだ。