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第2話 魔法①

 自作の拠点をひとしきりを堪能した俺は、中に潜り込み胡坐をかいた。


「さて、本来なら後は落ち葉の下にでも潜ってなるべくカロリー消費しないでいるのが正解なんだろうけど……」


 だが、あくまでここは夢の中。そして異世界だ。

 死ぬと言っても目が覚めるだけのこと。それなら色々と試してみたくなるのがオタクの本能というものだ。


「やっぱり魔法かなぁ。ステータスに魔法の欄なかったから、スキルオンリーの世界なのかもしれないけど」


 その場合俺は《純粋無垢》とかいう恥ずかしい名前の感情論スキルと心中する羽目になる。

 うん、それは避けたい。何としても魔法さんには居てもらわなくては。


「とりあえず、飲み水と火が欲しい。水はまあ、最悪雨露でも啜るとしてやっぱ火か」


 火起こしのやり方は知ってるが、実地で出来るとは思えない。動画では簡単そうでも適当に木を擦ればつくわけでもないだろうし。

 おまけにこの雨で乾いた薪は殆どない。ぶっちゃけ死活問題だ。


 火、火……そんなに強烈なのじゃなくていい。雨の中でも消えない、家庭用コンロくらいの火力があれば御の字だ。

 俺はむむむと唸りながら拠点の外に手を突きだし、ひたすら火をイメージする。

 とりあえずはイメージだ。強いイメージが魔法を生み出すのはよくある設定だし。  

 もしかしたら理論体系がガチガチだったり、詠唱がマストだったりするかもしれないが、その場合はまた後で考えればいい。


 目を瞑り、瞳の奥に炎を思い浮かべてしばらく唸り続けていると、不意にポンっとシャンパンを開けた時みたいな音がした。


 慌てて目を開ける。するとそこには……あった。


 イメージとは程遠い、小型のガスバーナーくらいの火の玉。 

 それが数瞬空中に留まり、ほどなくして霧散した。

 正直攻撃にも炊事にも使えない微妙なレベルだ。だが俺は、


「おおおおおおおおっ!!! 出たよ魔法! すげえ!」


 そのしょっぼい火に、大興奮していた。


「やっぱあるのか魔法! いやぁ、よかったよかった! さようなら《純粋無垢》。こんにちは魔法!」


 興奮のまま、よく分からないことを大声で口走る。


 だって、魔法だ。

 俺が念じて、火が出たのだ。

 ハリー〇ッターだって、最初は羽を浮かせるだけで大興奮していた。

 それに俺は、ファンタジーが好きだ。見るのも書くのも、大好きなのだ。

 例えこれが落ち葉一枚浮かせられただけだったとしても、同じくらい興奮している自信がある。


 俺はそのまま2,3度と火の玉を出して、ふと気づいた。


「遊んでる場合じゃない! こんなことして魔力が切れたらどうする!」


 そう、周囲は土砂降り。拠点は貧弱。俺はびしょ濡れ。

 気候的には春の本番くらいの暖かさがあるから易々と死にはしないだろうが、夜になれば一気に冷え込むだろう。


 俺は大木から大木へと渡り、根本で雨濡れを避けていた枝を集めると再び火の玉を出す。

 ちょっと濡れてしまっていたからダメかと思ったが、結構あっさり焚火が出来た。

 一応濡れて使えない枝と落ち葉で周囲を囲んでおいたから、横殴りの雨への耐性もあるだろう。 


「これで今晩は安心して眠れそうだな」


 追加の枝は火の傍で乾かしてあるし、焚火があれば体が冷える事も、獣が寄ってくることもないだろう。

 いやまあ、夢の中で寝るってのも変な話だが。


「さて、安心安全となったところで……やるか!」


 その後、俺は狂ったように魔法で遊びまくり……気付けば意識が途絶えていた。

 

***


 同日。森の中の某所にて。


「あれ、ここは……んひぃっ!?」


 ゆっくりと目を覚ました鮮やかな蒼い髪の少女が、突如悲鳴を上げた。

 周りが森……なのは百歩譲って良い。いやよくないけど。けれどそれよりも、


「人が、倒れてる……」


 周囲を埋め尽くすほどの、倒れた人の群れ。

 正確には分からないけど、50人くらいはいるだろうか。


「これは、夢……?」


 さっきまで、電車に乗っていたはずだ。急に森の中に移動するなんて夢以外ありえない。

 少女は内心そう思いながらも無意識に、何かを確かめるように自身の体に触れ――


「——があっ……おえええええぇぇぇ」


 直後、焼けるような痛みと共に、盛大に吐いた。


「ん? 何の臭いだ……?」


 その異臭によって次々に周囲が目を覚ますが、少女は咄嗟に同じように今目が覚めたふりをすることで、嘔吐の犯人は闇の中に葬られた。

 次々と目を覚ます人々。その雑踏を余所に、少女は考える。


「そうだ……あたしたちは、死んだはず」


 呟きは風にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。


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