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第11話 ザックエリア(4)

 朝早くに起きたアルルカは、木の幹に傷をつけて採取した蜜を煮詰めたものと昨日炒っておいた木の実を混ぜ合わせて平らに伸ばす。

 冷えてくると固まって、ナイフで叩くとカンカンと高い音がする。


「そろそろ良いかな」

「おはよぉございます……」

「おはようエレインさん」


 アルルカが作業しているところに滑舌が回らないまだ眠そうなエレインが起きてきた。

 ナイフを持つアルルカの手元を覗き込むとエレインは首を傾げる。


「なにしてるんですか?」

「携帯食作っておこうと思って」


 あとは切るだけなんだ。とアルルカはザクザクと棒状に切り分けていく。売り物とは違い形は少し歪だが、しっかりと固まっていた。


「自分で作れるものなんですねぇ」


 小分けして紙に包んでいく。歪な縁を切り落として出来た端切れをエレインにひとつ差し出し、自分の口にも運ぶ。

 ザクリと音を立てて砕かれたそれは売り物よりも固くなっている。ザクザクと噛み進めていくと少しずつポロポロと解れていく。


「甘いですね」

「ちょっと煮詰めすぎたかな」

「美味しいですよ?」


 エレインは気に入ったようでにこにこと食べている。あまり表情が動かないエレインの緩い笑顔と、これまでの様子から考えて甘いものが好きなのだろう。


「今日は少し奥の方に行ってみる?」


 アルルカの提案にエレインの目にキラリと好奇心の光が輝く。

 採取用の布と必要最低限の持ち物だけを持って2人は森の奥に進む。

 ザックエリアから離れると途端に木々が空を覆い日差しを遮った。

 足元の草を払いながら、するすると迷わずに先に進むアルルカの視線を追えば木に傷がついていた。リチェルカの誰かがつけた目印なのだろう。

 エレインがアルルカの後をついて歩いているとピタリとその足が止まった。アルルカが振り返りエレインと目が合うと上を見るように指を差した。

 指の先を辿って上を向くと木の日の当たらない内側の部分が枯れており、その近くに大きな実がなっていた。


「パンノキ……?」

「モドキだね。パンノキモドキ」


 パンノキと呼ばれる木によく似たそれは、パンノキに似ていることからパンノキモドキと呼ばれている。

 そこまで背が高いというわけではない上に実の重さで枝や葉が頭を垂れている。石や枝を使えばすぐにパンノキモドキの実を落とすことが出来た。


「思ったより小さいのに重さはありますね」

「ギッシリしてるからね」


 エレインから実を受け取り布で包む。


「チチッ」


 どこかへ探検していたティティがいつの間にか戻ってきてアルルカの服をくいっと引っ張り、着いてこいと言うように指を差す。

 小さな体を見失わないようにアルルカたちはティティの後を追う。チラチラとアルルカたちを気にしながらもティティは迷わず一直線に進んでいく。


「チッ!」


 ピョンピョンと飛び跳ねながらアピールするティティの周りには明度がさまざまな紫の花が群生していた。


「美しいですね……」


 ほう……。とエレインは感嘆の息をつき、アルルカは花に近づいて観察をする。

 強い匂いはしないがふんわりとミントのような爽やかな香りが花から漂っていた。

 ティティの顔より大きな花に、ティティは顔を突っ込んでチュウチュウと蜜を吸っている。


「懐かしいなこれ」


 アルルカは花をひとつ手折ると花の(がく)をちぎり、口に当てるとティティと同じように蜜を吸う。


「昔……俺がまだ小さくて、師匠と旅してる時にもこうやって花の蜜を吸ってたんだ」


 エレインもアルルカに倣い、花を手折って萼をとり蜜を吸う。

 植物特有の少しの青臭い香りに、清涼感のある甘さとちょっとの酸っぱさ。

 気づけばティティは別の花の蜜を吸っていた。 


「同じ品種の花なのに色が違う原理は分かってないんだって。味も色が濃いほど甘いんだ」

「不思議な花なんですね。なんて名前なんですか?」

「イーリス・イリス」


 その花は、発見者のイリスという女性の名前がつけられた。ひとつひとつ色も蜜の味も違うそれを虹のようだと彼女は評したと言われている。


「名前まで美しいですね」

「そうだね。……ほら、ティティ。もうやめとこう、花がなくなっちゃう」


 アルルカは苦笑いしながら次の花に顔を突っ込もうとしていたティティを拾い上げる。名残惜しそうに花に手を伸ばしていたが抵抗することなく腕に納まった。手をぺろぺろと舐めて恍惚な表情をするティティにアルルカは呆れて笑った。

 これ以上いたらまたティティが花に夢中になるだろうと未だ余韻に浸るティティをポケットに入れ、アルルカたちは来た道を戻っていく。

 パンノキモドキを確認し、その先に進もうとしたが棘の長い植物が生えており先に行くことは出来なさそうだった。


「流石に引き戻した方が良さそうですね」

「そうだね」


 ザックエリアまでの道を戻りながら少し道を逸れたりして木の実を採取していく。


「あ、きのこありますよ」

「きのこはやめとこうか」

「毒があるといけないですもんね……」


 エレインは心做しか残念そうにきのこを見送る

 動物があまりいないからかこの場所はきのこが多く生息している。毒性のあるものばかりではないが、万が一のことがあるためアルルカはきのこは採取しないようにしている。

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