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第11話 ザックエリア(3)

「このくらいあればいいかな」

「そうですね」


 食用に適した魚が5匹ほど釣りあがった。サッとその場で内臓を取り出して洗うと木に刺して葉に包む。

 キャンプ地へと戻る準備をしている2人の元へティティも帰ってきた。


「またいっぱい採ってきたね」

「チィッ」


 ティティは小さな手に膨らんだ葉を手に持ち誇らしげにアルルカを見上げて鳴いた。先程のリベンジだ。

 持ち帰った木の実をティティがひとつずつ出していくのにアルルカが判定していく。その間にエレインは火を起こしていく。


「おお〜」

「チィ!」


 見事ティティの持ってきた木の実は全て食べられる判定を貰うことができ、リベンジを果たした。

 釣った魚は塩を軽くふって焼き、水分量の多い果物系の木の実はそのまま食べることにする。


「はいエレインさんの」

「ありがとうございます」


 木の串に刺して焼いた魚をエレインへ渡し、小さめの魚の串を外して軽く解したものをティティの前に置くとアルルカも串を手に取る。


「あちっ」


 まだ熱いそれにふぅふぅと息をかけていると隣からエレインの声が聞こえた。どうやらまだ熱かったらしい。

 冷ました魚に齧り付くと少し焦げた皮がパリッとして中の身はふっくらとしていた。川魚特有の淡白さとほのかに苔の香りがして自然の味を感じられる。


「野営って感じでいいですね」

「王道だよね」

「昔本の挿絵でこうやって焚き火で魚を焼いてるのがあって、いつかやりたいなって思ってたんです」

「本?」

「ソラの旅路っていう本です。アルルカは読んだことありますか?」

「読んだとこないかなあ。どんな話?」


 エレインはソラの旅路について話し始めた。

 主人公ソラが世界で1番高いところを、空に1番近いところを求めて色々なところに旅をする魔法ありの冒険ファンタジー。魔法の世界でソラは魔法が使えないけれど、魔法に頼らずに逞しく生きている。魔法が使えないことで下に見られることもあるけれど、ソラの真心によって周りの人はソラを認めていく。といったストーリーだ。


「ちょっとリチェルカみたいじゃないですか?」


 説明を聞いたアルルカが思ったことをエレインが言ったのでアルルカは目を丸くしてパチパチと瞬いた。


「俺もちょうどそう思った。図書館行った時にあったら読んでみようかな」


 本部の図書館にはなかったから大きめの都市の図書館で見てみようとアルルカは考えながら琥珀色をした果実を口に放り込んだ。


「エレインさんって本とかよく読むの?」

「そうですね。元々遅れてた知識を取り入れるために読んでいたんですけど、性に合ったみたいで手当り次第読んでました」


 アルルカもよく本は読んでいるが専門書や歴史書などが主で物語系統の本はあまり読んだことはない。

 エレインが先程言っていたのと同じようにアルルカも本は知識を貯えるためでそれを趣味としている。専門書を読むことがすでにアルルカにとっての娯楽であったからか、娯楽のために書かれた本は読もうという気持ちになったこともなかった。

 ルナルスも好まなかったのか家に置いてなかったのもアルルカが物語系統から遠ざかる一因だったのかもしれない。


「あ」


 エレインが薄紫の木の実を手にした時、アルルカが何か気づいたように声をあげた。いそいそとエレインと同じ木の実を手に取る。


「これ、アタリとハズレがあるんだって」

「アタリとハズレですか……?」

「アタリは甘くてハズレは酸っぱい」


 雑多に集められた木の実の中に同じものはもうない。


「せーので食べない?」

「いいですね。やりましょう」

「せーのっ」


 掛け声と共にアルルカとエレインは木の実を1口で食べる。

 ハリのある表皮がプツリと噛み切られるとシャクリとした瑞々しい食感と共にじわりと水分が溢れる。


「あ、甘い」

「すっ……ぱ……っ」


 どうやらアタリを引いたのはエレインだったようで喜んでいる。その横で見事ハズレを引いたアルルカは酸っぱさに口を抑え耐えていた。


「う〜、やっぱ一か八かの勝負はやんない方がいいね」


 口直しに甘い木の実を食べながらアルルカは反省した。

 昔から何故か2択になると外してきた過去があるというのに、運試しのようなことが好きで未だにこうしてハズレを引いているのだからアルルカは全く懲りていないようで。


「エレインさんは引きがいいね」

「昔から運だけはいいみたいで」


 くじ引きでハズレを引いたことはないし、欲しかった絶版された本がたまたま手に入ったり、人気商品の最後のひとつを手に入れたりと、指折り数えるほどに運が良かったエピソードが出てくる。


「記憶を失ったとはいえ無傷で助かったのも運がいいですかね」

「う〜ん? 誘拐されてるのは不運だからどうかなぁ」

「それと、アルルカに出会えたことも運がいいです」


 記憶も戻らないうちに生きるのに必要な知識だけを持って家を出たエレインは、多くの土地を旅しては1度しか会ったことのないリチェルカの記憶を頼りに弟子入り出来るリチェルカを探した。

 アルルカの前に出会えたリチェルカはたった2人。その2人にも弟子入りは断られてしまった。なんて運がないんだと思わなくもなかったが、エレインはアルルカを見つけた。


「きっと私の人生の中で1番の幸運です」

「……そっか」

「照れましたか?」

「照れてないです」

「アルルカ照れてます」

「照れて、ない! 寝る! 先に火の番よろしくね!」


 顔を赤くしたアルルカは満腹で仰向けに寝転んでいたティティを抱き上げてテントに入る。

 その姿をエレインはくふくふと笑いながら見送った。

 

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