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第10話 買い出し

 大食い大会があった次の日、早朝にアルルカとエレインは受付に部屋の鍵を返却した。


「荷物はあとでで」

「かしこまりました。お預かりしておきます」

「お願いします」


 食料の買い出しにはレネも同行することになった。

 ティティは昨日のレネの様子が気になったのかはたまたなんとなくなのか、珍しくアルルカのフードの中ではなくレネの頭に乗っている。


「長持ちする食料ですよね!」

「うん。一応前にも買ったところにしようと思ってたんだけど」

「リチェルカたちがよく使うのは水鞠通りにある【ショーンの砦】ですね」

「確かそんな名前だったかな。携帯食料の種類が多いんだ」

「ではまずそこへ向かいましょう」


 リチェルカ協会のある場所から1番遠い水鞠通りに向かって歩き出す。

 水鞠通りにいるのはほとんどが街の外から来た旅人だ。

 その中でも旅人向けの保存食を売る店が立ち並ぶ一区域は【ショーンの砦】と言われ狭い路地が入り組んでいる。この区域は他の区域よりもかなり早くから店が開けられているので早朝から欲しいものがある者のほとんどがここへ訪れる。

 大きな荷物を持った人々がぶつからないように避けながら店を見て回ったり店主と話をしている。


「まずは何から買いましょう?」

「乾燥してある野菜とか、穀物かな」


 そう言ってたどり着いたのは客入りの良い1軒の店。

 軒先には紐に連なって吊るされた何かが列をなしている。それは店の中にまで続いていた。


「柿ですね。これは甘くて美味しいんですけど、あまり日持ちしないので長旅にはおすすめしません」


 興味深い目をして見ていたエレインにレネが吊るされていたものは柿なのだと答えた。


「かき……初めて見ました」

「少しだけ買ってみる? ここら辺は気温も高くないし3日くらいなら持つよ」


 中まで完全に乾燥しているわけではない干し柿は気をつけて保存したとしても長持ちはしないのであまり旅人からの需要はなく、商人がまだ干し途中のものを買っていったり、地元民のおやつとして買われていくことがほとんどだ。

 稀に買っていく旅人は3日以内に食べる用に買っていくか買ってその場で食べてしまう者もいるのだとか。

 そわそわとしたエレインを見かねてアルルカが3つ連なった干し柿を手に取り、そのまま店の中へと入っていく。

 中には果物と野菜の乾物が並べられていた。


「次の目的地まではどのくらいかかるんですか?」

「う〜んとりあえず1か月を目処に食料は買うつもり。でもたぶんそれよりは早いかなあ」


 エレインはアルルカと出会う前は人がいる街から街へと移動していたため長く補給をせずに歩くという経験は初めてで、1か月という長さに驚いた。


「途中キャラバンに出会えるのが1番良いんだけどね」


 通るのかすら分からないキャラバンを期待して少なく買うよりもなんらかのハプニングが起こった時に備えて多めに買うのが長旅の基本中の基本だ。

 いくつかの乾燥野菜と少しの乾燥果物を購入してアルルカとエレインが半分ずつ持てるように分けてもらう。


「まいど。良い旅を」


 他の客の邪魔にならないよう店を出て、次に訪れたのは干し肉が売られている店だ。

 この店は精肉店と同じオーナーの店で別の通りでは新鮮な肉を取り扱っている。


「ここのお店は加工から自分でやっているので他から仕入れているところよりも質が高いって聞いてます」


 ここの加工肉は乾燥度で並びが分けられ、その中で更にハーブなどの配合によっても種類が分けられておりかなりの種類のものが並べられている。

 客が少ないからか、乾燥度の低い燻製肉の試食を店員が配っていた。

 アルルカたちもそれを受け取る。何も味付けせずにただ焼いただけの燻製肉は脂が溶けだして表面がてらてらと光っていた。


「美味しい……」

「保存性の高いのより固くなくて肉感が強いね」


 燻製肉は塩気が強く付けられていることが多いがそんなこともなく、これひとつで1品として出されても文句を言う人はいないだろう。


「ハーブが少し弱めですけどそのおかげで燻製肉単体でも食べやすいですね」

「うちのはここらの食堂にも卸してるからね。味は保証するよ」


 注文が入ったのかいくつかの包みを抱えた婦人がすれ違いざまにそう言葉を残していく。


「少しだけ味見したやつも買っていこうか」

「賛成です」


 味見した燻製肉の他にハーブの配合が違う2種類の乾燥度の高い燻製肉も買い、次は魚を買いに行こうと道なりに進もうとした時だった。


「あの! 先程の燻製肉みたいなお魚は、だめですか……?」

「乾燥しきっていない魚ということでしょうか?」

「はい……10日程度しかもたないのであまり長旅向きではないのですけど」


 お腹あたりで両手の指をもじもじとすり合わせながらレネが提案する。

 詳しく聞くと、この場所から少し離れた川沿いの場所に燻小屋がありそこで川魚を燻製にして細々と売っている翁がいるのだとか。目立たぬ場所だが一定の客数はいるので辞めるに辞められず後継者もいないため年老いた翁1人で作業をしているという。


「あまり他では見ないものだと思うので味見程度でも買ってみる価値はあるんじゃないかと」

「他の魚の干物とかはそこにはあるのかな?」

「いえ、完全に乾燥させた魚は置いてないので長持ちする物はそこ以外で買うことになります」

「じゃあここで買い物済ませてから行こうか」


 燻製肉の店の並びにある店で小魚や貝などの干物をまとめて購入し、そこから少し離れた携帯食の店へと入る。

 その店は以前アルルカが利用した店だった。


「ここの携帯食が美味しいんだよね」


 胡桃やヘーゼルナッツなどのナッツ類や、ひまわりの種や松の実などが蜜によって固められた携帯食が一般的になったのはここ10年ほどのことだ。それまでは穀物などを引いて水で練り焼き固めたものや、穀物に加え野草や山菜などと共に生姜や油などが加えられて固められたものが多かった。

 以前の穀物を固めたものをベースに改良していき、段々味の向上に繋がったのだという。

 今では地域によって使われるナッツ類や穀物、蜜の種類が違うのが旅人の中で小さな楽しみとなっている。


「アルルカの言っていた通り種類が多いですね」

「でしょ。俺はナッツだけのが好きなんだけど、ナッツ少なめのビスケットみたいなやつも美味しいよ」

「ぼくは松の実と野菜の入ったものが好きです!」


 アルルカとレネのおすすめを聞きつつも目線は見本として置かれた半分に折られた携帯食へ釘付けなエレインの頭にささっとティティも移動をして同じく携帯食を見つめ始める。


「悩んでしまいます。もうとりあえず全種類買いましょう……!」

「チィ……!」


 エレインの決断にティティが強く賛同するように鳴き声を上げるのを見てアルルカとレネは笑った。

 食いしん坊たちの希望通り全種類買ったとしても余ることはないので全種類ひとつずつといくつかは多めに買い込むことにした。


「じゃあ例のお店に案内してもらおうかな」

「はい!」


 レネを先頭にして【ショーンの砦】を抜け、水毬通りを壁側へと向かい歩き出した。

 周りに人がほとんどいなくなると足元から水の流れる音が聞こえてくる。地下を川の水が流れているのだろう。

 水の音を聞きながら進むと他の建物から離れた場所に大きさの違う小屋が2つ並んでいるのが見えた。

 外では髪の白くなった老父がちょうど橙色の身をした魚を網に並べているところだった。


「ロファ爺!」

「レネか」


 どうやらレネとロファという老父は名前を呼び合う程度には親交が深いようで少し話すとレネがロファにアルルカとエレインを紹介する。


「生憎残ってるのが少ないが、それでもいいのか?」

「お2人はこの後長旅の予定なのでまずは味見をしてもらおうと思って」


 ロファはレネの言葉に頷くと先程網に並べていた魚と似た色の燻製を1口分に切ってティティとレネの分も含めて4切れを用意してくれた。ご厚意に甘えそれぞれ1切れずつ取り口に運ぶ。

 燻製のせいかくすんだような色になりハーブがほのかにまぶされているそれは、これまで食べてきた燻製よりも柔らかく魚本来の食感に加え少しねとっとするような濃厚さが舌に伝わる。


「相変わらず美味しい……!」

「味が濃厚ですね! 私はまだお酒は飲めませんがお酒に合う味って感じがします」

「うん。塩気がないのに全然物足りなくないし、それどころかかなり満足感ある。それにこの柔らかさで10日も持つなんてすごいよね」

「チィ〜!」


 値段は他の燻製より少し高めだが、半身分ほど購入することに。

 携帯食と同じくらいの大きさに切られ、1枚1枚を殺菌性の高い葉に包んでもらいエレインの鞄へと仕舞われる。


「俺が持ってるとティティが食べちゃいそうだから……」

「この様子を見たらその心配は正しいと思います」

「ヂ!? ヂィ〜!」


 地面に下りて地団駄を踏みながら抗議の声を上げるティティの前にアルルカはしゃがみこみ口元を拭う。


「よだれ拭いてから抗議しような?」

「ヂ……」

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