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第9話 食の街(1)

 橋を渡りきると検問がある。

 大きい街には必ずと言って良いほどあるこれは身分を証明出来るものを提示するかそこそこ高い通行料を払わなければならない。


 アルルカはリチェルカの証である腕輪を見せ相棒動物(ニア)の証明書を提示し、エレインは通行料を払い許可証である黄色のタグをもらう。

 帰りにこのタグを返せば通行料の半額が返ってくるという仕組みだ。

 橋の下では貿易船から積み荷の荷降ろしがされており、運河として使われているのが伺える。


「こんなところにこれほど大きい街があるんですね」


 エレインは城壁を見上げながら感嘆と言葉を吐く。


「詳しくは俺も知らないんだけど、昔は本当に城だったんだって。城自体はなくなったけど城壁は当時の物を修繕してるとか」


 アルルカもエレインと同じように城壁を見上げる。空が狭く感じてしまうほどに石造りの壁は天へと伸びていた。

 荷車を通すために整備された道は歩きやすく、忙しなく走る荷車の邪魔にならないように他の通行人たちに倣いアルルカたちもフィリベックの手網を引きながら端を歩く。


「色んな匂いがしますね」


 くんっと鼻を鳴らせばどこかしこから美味しそうな匂いが漂っている。

 多くの食材の集まるこの街では試食文化が広まっていた。珍しいものを購入してもらうために試しに食させ気に入れば商談が始められる。商談がすぐ始められるようにと専用の家屋が出来、それが時を経て店として機能するようになったのだ。


「協会に顔を出したらあとで食べ歩きしようか」

「はい!」


 まずは乗ってきたフィリベックを騎獣舎へと返す。

 この街の騎獣舎に入ると片眼鏡をかけた強面の男が何かを見ながら唸っていた。


「隣街から乗ってきた騎獣を返したいんだけど」


 アルルカがそう声をかけるとやっとお客のことに気づいた男が顔を上げる。


「そうか、1頭か?」

「フィリベックが2頭だね」

「それは助かる。ちょうど陸路用が足りなくてな。悪いが騎獣連れて裏に回ってくれるか?」


 男の言う通りフィリベックを連れて裏手に回るとそこから放牧用の広場に入ることが出来た。少し遅れて男が現れフィリベックを柵に繋ぎ帳面に何か書き込みながらフィリベックの様子を見ていく。


「よし。問題なさそうだな」


 男がフィリベックの手綱を外してやるとフィリベックは嬉しそうに広場を駆けていく。


「チィ……」


 アルルカのフードから顔を出しティティは寂しそうにその姿を見た。

 別れを惜しむティティをフードから取り出し慰めの意味で撫でくりまわしていると男が懐から取り出した紙をアルルカへと渡した。


「お礼ってもんじゃないがよかったら受け取ってくれ」


 紙を持つアルルカの手元をエレインもひょいと覗く。


「大食い大会参加チケット……」

「大食いに自信がなくてもまあ、タダ飯食うつもりで参加してくれ。味は良いって評判らしい」


 それだけ渡すと男は騎獣舎へと戻っていった。

 アルルカはそのチケットを興味津々と見ていたエレインに渡すと、すっかり拗ねアルルカのフードの中でふて寝するティティを取り出しポケットへと移動させた。


「じゃあ協会に行こうか」

「はい」


 最後にフィリベックに目をやるとフィリベックはすでにアルルカたちになど興味が無いように駆け回っていた。

 騎獣舎を後にしたアルルカたちは石畳の道を歩く。ここは宿泊街なのだろうか馬車や騎獣を走らせないように少し歩きづらくなっている。しばらく歩くと協会が見えてきた。

 この街のリチェルカ協会支部はリチェルカ用の宿泊施設も兼ねており4階建ての石造りをしていた。

 1階は受付となっており、要件ごとに仕切られている。

 今回アルルカたちは泊まりのみの要件だったのですぐに部屋の鍵を2つもらい部屋で必要なものだけを取り出すとあとの荷物は受付に預けることにした。


「アルルカさま。観光でしたら案内をつけますがいかがでしょうか」


 先にアルルカが受付で待っていると受付を担当していた女性がそう提案する。


「ここ、そんなことしてたっけ」

「それが……」


 苦笑いする女性の後ろからひょこりと小さな頭が出て赤みの強い茶髪が揺れた。


「その子は?」

「商人の両親に捨てられてしまったみたいで、一時的にここで保護しているんです。両親はすでに数年前にここから出立して戻ってきたことはありません。生まれてからここで育ったものですから地理などは完璧です」


 協会に併設されている宿泊施設の一室を使わせているが流石にこのまま保護しているわけにもいかない。何か役に立つような得意があれば職にして生きていくことが出来るだろうとこの街の案内役として訓練をしているのだとか。


「今までは知り合いの方に協力してもらっていたので、まだ本格的な案内はしたことがなく……」


 話していると階段を下りて受付に荷物を預けるエレインの姿が見えたアルルカはエレインに意見を求めた。


「エレインさん、街に詳しい人が案内してくれるそうだけど、どうする?」

「私はお願いしてもいいと思います。地元の方ならではのお店などもありそうですし」


 新しく買ったあの鞄を肩に提げながらエレインはにこやかに答えた。おそらく話が聞こえていたのだろう。


「ということで、俺たちが最初のお客さんってことになるのかな」


 受付の女性に背中を押された子供が緊張した様子でアルルカたちを見上げる。


「レネです! 旦那様方をご案内させてもらいます!」

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