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第6話 夜明けのワインとイエローチェリー(1)


 トラストと別れ、2人と1匹は順調に先へと進む。

 何もない道を抜け、村が点在する地点を過ぎると大きな街にが見えてきた。どうやらそこは様々なところから商人たちが交易に訪れる商人の街のようだ。

 街に入ると栄えた街並みにたくさんの人がごった返し、商売の声が響いていた。


「お祭りでもあるのでしょうか」

「ここはいつ来てもこんな感じだよ」


 アルルカは何度か立ち寄ったことがあり、慣れたようにスルスルと人混みを進んでいくがエレインはあまりの人の多さに戸惑い、流されていく。

 アルルカが振り向いた時、エレインとはかなり距離が開いてしまっていた。


「あっ、ごめんエレインさん!」


 アルルカまた人混みを器用に抜けてエレインの元へとたどり着くとエレインは目をぐるぐると回していた。かなり人混みに揉まれたのだろう。アルルカを見つけるとほっとしたようで傍を離れまいとピタリと隣へくっつく。


「すみません。お手を煩わせてしまって」

「俺こそ気づかなくてごめん。とりあえず、人混みを抜けるまでは手でも繋いでおこうか」

「お願いします……」


 申し訳なさそうにおずおずと差し出された手をしっかりと掴むとアルルカはエレインの様子を見ながらゆっくりと人混みを抜けていく。


「何かコツとかあるんですか?」

「人の流れをしっかり目で確認することかなあ。足の向きを見るといいよ。横向いて歩いてる人とか普通にいるから顔を見るのはおすすめしないかな。たまに急に方向転換する人とかいるけどね」


 街の1番賑わう商店街を抜け宿場通りを抜けるとやっと人がまばらになってくる。どちらからともなく手を離すとエレインはアルルカの後ろをついて行く。向かう先は宿屋の併設されたリチェルカ協会だ。

 レンガ造りの建物が建ち並ぶその道の一角に協会はある。

 扉を開け1歩協会の中へ踏み入れたアルルカが振り返ると、エレインは扉から数歩離れた場所で立ち止まっていた。


「あの、私は外で待ってます」


 扉の隙間から見える中にはアルルカと同じ藍色のローブを身につけた人が数人いるだけだった。この協会の中にいるのは全てリチェルカなのだろうと思うとエレインの足はそこから先に進むことが出来なくなっていた。


「リチェルカじゃない人も入っていいんだよ」


 そう言ってアルルカはエレインの手を引いて協会の中へと入る。

 中は白にわずかに黄みの混じる卯の花色の壁と木の床という馴染み深く暖かみのある内装で、受付のカウンターが待ち受ける。


「座って待ってる? それとも見る?」


 アルルカは奥にある机と椅子が4セットほど並ぶ雑談スペースを指差しながらエレインに聞く。


「見ててもいいですか?」

「いいよ」


 エレインはおずおずとアルルカのそばへと寄る。

 受付の中には同じ服を着た人が数人おり、アルルカに気づくとすっと1人が寄ってきて対応する。


「おかえりなさい」

「ただいま。記録の提出と相棒動物(ニア)の登録、あと本部に手紙を出したいんだ」

「かしこまりました。ではまずは記録の確認から致します」


 白いブラウスに瑠璃色のズボンを履いた受付嬢が差し出したトレーに記録水晶(ログスフィア)を並べていく。


「お預かりします」


 受付嬢はトレーを受付の奥にいる男に渡し、1枚の髪とアクセサリーボックスのようなものを持ってきた。


「相棒動物の登録用紙がこちらです」


 登録用紙には相棒となる動物の種族名や名前、色や模様の特徴などを記入しなければならない。アルルカがティティを呼ぶとティティはするすると受付のカウンターの上へと登りアルルカの目の前に座る。


「チィ」

「躾も問題なさそうですね」


 微笑まそうに笑うと受付嬢もまたアルルカと同じくバインダーに挟んだ用紙に何かを記入していく。


「ではこちらからお好きな証明証をお選びください」


 受付嬢がアクセサリーボックスを開くと中には様々なタイプの動物につけるアクセサリーが並んでいた。協会の建物にもついていた模様が全てに刻まれている。

 水晶や(ふだ)のようなもの、リボン、腕輪や首輪など小動物に合わせたサイズのものが用意されていた。


「たくさん種類があるんですね」


 エレインの呟きを拾ったのはアルルカではなく受付嬢だった。


「動物が普通に生きていれば身につけないものです。人の都合なのに人を信頼してつけてくれるので、少しでも気に入ったものをご用意出来ればと年々増えていきました」


 アルルカはひとつひとつ手に取りティティの目の前にかざしていく。ティティはその中のひとつを指差して鳴いた。


「チィ!」

「これがいいの?」

「チ!」


 ティティが選んだのは模様の入った水晶に紺青色のリボンがついた首輪になるタイプの証明証だ。

 受付嬢はそれを受け取り、ティティの首に合わせてリボンの長さを調節していく。首の下に水晶の玉がくるように付けられた。


「自分で取ってしまう子も多いので注意して見てあげてください」


 ティティが用意された鏡に姿を映しうっとりとしているのを見て受付嬢はくすりと笑いアルルカを見る。アルルカは少し恥ずかしそうに頬を染めて苦笑いをした。


「あまり心配はなさそうですね」

「そうみたいですね」


 受付の奥から受付嬢と同じ服を着た男が受付嬢へと何かを渡す。


「記録水晶の確認が終わりました。今回の報酬と新しい記録水晶です」


 提出した数と同じ数の記録水晶の並べられたトレーと手のひらサイズの袋に詰められた硬貨が渡される。


「スラッジランガーの記録は珍しいものですので他のものより高くお取引させて頂きました」


 ジャラリと音のなるそれはいつもより重かった。


「ありがとうございます」

「本部へのお手紙はこちらで用意致しますか?」

「書いたものがあるから、これを届けてほしい」

「かしこまりました」


 アルルカは懐から1枚の折りたたんだ紙を取り出して受付嬢へと渡す。受け取った受付嬢は封筒に入れ封蝋を押す。模様はやはりあの模様だ。


「あの模様はどんな意味があるんですか?」


 エレインの疑問に答えたのはやはり受付嬢だった。


「球と円環、これは世界を現しています。そして球の中にあるのは本、これはリチェルカが記録してきたことを意味しています。世界の全てを記録していくリチェルカを現していると言われています」

「リチェルカのシンボルマークなんですね」

「貴女にもご縁のある模様となるでしょう。リチェルカ志望のお嬢さん」


 受付嬢の後ろから同じ服にリチェルカのローブを着た老人が現れエレインにそう言葉をかけた。


「お久しぶりですMr.グラハム」

「ああ、久しぶりだねアルルカくん」


 アルルカはその老人をMr.グラハムと呼んだ。2人の雰囲気からその親密さが伝わる。


「どうしてエレインがリチェルカ志望だと分かったんです?」


 エレインも気になっていることをアルルカが尋ねるとグラハムはしたり顔で笑った。


「簡単なことさ。こんなところにリチェルカと来る一般人なんてリチェルカ志望しかいない」

「Mr.グラハム、お急ぎなのでは?」


 受付嬢が呆れながらグラハムへと声をかけるとそうだったなと帽子を被り鞄を持ち直して受付から出てアルルカたちの隣を過ぎていく。

 扉にかけようとした手を止めてグラハムはアルルカたちへと振り返る。


「アルルカくん、お嬢さん。良い旅路を」

「Mr.グラハムも良い旅路を」


 エレインはグラハムに頭を下げて見送った。


「Mr.グラハムはたまにリチェルカとしての活動をするけど、基本は協会内で仕事をしてるんだ。だからリチェルカとしてのMr.グラハムを見ると良いことがあるって言われてる」

「幸運の小鳥みたいですね」

「幸運の小鳥?」


 エレインの言う幸運の小鳥という言葉を初めて聞いたアルルカは聞き返す。


「童話です。その鳥は小さい頃には尾が短いけれど、大きくなると長くなるのです。尾の長い小鳥は珍しいとされて見つけるとその日は一日幸運に恵まれるんです」

「北の樹木の都市で有名な童話ですね」


 意外にも受付嬢はその話を知っていた。


「はい。作家の方がそこの出身だと聞いています。私の故郷は樹木の都市に近いので私も昔父に読んでもらいました」

「もし寄ることがありましたらサドゥラの祠というご飯屋さんが美味しいので是非」


 全ての手続きを終わらせたアルルカは最後に宿屋の鍵をもらうと荷物を持ち直す。ティティはササッとアルルカの肩に乗り移りチィとひとつ鳴いて準備万端だと知らせる。


「じゃあ行こうか」

「はい」

「良い旅路を」


 受付嬢の挨拶を背に受けアルルカとエレインは協会を後にした。

 

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