表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/59

放蕩息子の帰還 part3

「ウォルズリー家の宿命から解放され、あんたはもう自由なのよ!あんたの魂を束縛するものはもう何もないわ!愛する家族の元へおゆきなさい!」

 その声が聞こえたかのように、アーサー少年はこちらを向いて少し俯いたまま恥ずかしそうに笑うと、両親の元へと駆け出した。


 たくさんの人影が見守る中、出迎えるように膝を軽く曲げ中腰になった母親である吉岡アンに抱きついた。

 アンは目を閉じたまま、帽子が脱げて癖っ毛の金髪があらわになったアーサーの頭と身体を抱え込み何かを語り続けているようで、アーサーが小さく何度もうなずいている。

 やがて母親から離れると、父親から妹を受け取り愛おしそうに何度も頬ずりをし、最後に妹を母親に手渡すと勢いよく父親へ飛びついていった。

 長身の父親は笑顔でアーサーを力強く受け止めると高く抱き上げ、その場でくるくると回り始めた。

 取り囲む人影が笑顔で拍手をし、アーサーも、両親も、みんなが笑っている。


「アーサーってば、本当にガキなんだから」

 その光景を見ながらノーラが笑いながら二人にささやいた。

「もう、高い高いしてもらう歳でもないのに」

「ノオオラアアアアアアア〜!」

 アンが盛大に号泣し、鼻水を垂らしながら抱きついてきた。

「ちょ、あんた!きったないわねえ!」

「怒んないでええええ〜!太郎おじちゃん、やっと帰ってこれたのよねえええ!よかったねえええ〜!」

「ああ、もう!離れろって!ジョシュア、あんたこの娘を何とかしなさい!……って、ジョシュア?」


 二人から少し離れて立つジョシュアの背中が、小さく震えている。

「こら!あんたウォルズリー家の当主でしょ!しっかりしなさい!」

 ジョシュアは二人に背中を向けたまま手を伸ばし、左右に振った。

「…………ごめん、ちょっと無理」

「まったくもう!どいつもこいつもガキなんだから!」


 くるくると回り続け、地面に降ろされたアーサーは、改めて両親と強く抱き合った。

 やがて、周りで取り囲み拍手をしていた大勢の人影が一つ、また一つと消えて行き始めた。

 みんな笑顔でアーサーや家族、そして三人へと別れの手を振る。

 

「ノーラ、もう、これで終わっちゃうの……?」

「……」

 アンがずずーっと鼻水をすすりながらノーラにたずねるが、返答はない。

 目を真っ赤にしたジョシュアが代わりに答えた。

「お別れの時間が来たんだよ、アン」


 中庭を埋めつくさんばかりのたくさんの人影も全て消え、最後に残ったアーサーと家族の姿もぼんやりとしていく。

「ああ、みんな消えていっちゃう……!」

 悲痛な声をあげ、もう一度泣き出しそうなアンの元へ、アーサーが駆け寄って何かを差し出した。

「太郎おじちゃん……」


 それは一輪の小さなバラの花だった。


「アーサー、あんた一丁前のプレイボーイみたいな真似してるけど、大恩人であるあたしには何もないってわけ?いい根性してるじゃない!」

 ノーラが皮肉っぽく話しかけると、アーサーはいきなりノーラを抱え上げて抱きしめると、熱烈なキスをした。

「わお!」

 アンがバラを握りしめたまま両手を口に当て小さく叫んだ。

「こ、こら!アーサー!あんた何をー」

 目を白黒させながら怒るノーラにアーサーはウインクをすると、家族の方へと駆け出した。

「おじいちゃん!」

 ジョシュアの叫び声に振り向いたアーサーは、大きく手を振って笑いながら何かを叫んだ。

「え、何だって?わかんないよ!おじいちゃん」


 やがてアーサーと家族の姿はゆっくりと消えてゆき、気がつけば三人は夏のきらめくような朝陽が顔をのぞかせる、荒れ果てた中庭に立ち尽くしていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ