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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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二人のアン part1

 ノーラの叫びも間に合わず、思わず手を離したアンに亡霊は凄まじい速さで近づくとその身体に入り込んだ。

「しまった!」


 前後に一度、アンの身体が大きく揺れて椅子から転げ落ちそうになるのをジョシュアが咄嗟に受け止め、何とか座り直させたが、がっくりと頭を下げたまま動かなくなってしまった。

『ううう……ああ……』

「アン、僕だ!大丈夫か!」

『あああああ……ああああ……どうして……』

 うつむいたまま絞り出すような嗚咽の声が聞こえ、アンの身体は小刻みに震え続けている。

『ああ……ああああ……!!!』

「しっかりするんだ、アン!」

 肩をつかみ必死で呼びかけ続けるジョシュアをノーラが止めた。


「乱暴にしてはダメよ。今のこの子の魂は亡霊となってしまった“アン”と融合してしまっている。無理に引き離そうとすれば器となっているこの子自身の魂が壊れてしまう危険性があるわ」

「そんな!ノーラ、あなたの力でもどうしようもないのか⁈」

「そんな話じゃないのよ。深い後悔と悲しみに自我を失ってしまった“アン”は、自分と相似性の高いこの子を在りし日の自分と錯覚してしまっている。簡単にはいかないわ」

「僕の責任だ……どうすれば……」

「“アン”とアン。二人の魂の邂逅が何を起こすのか……それに期待するしかないわ」


===============

 その時のあたしは、一体何が起こったのか見当もつかなかったんだ。

 ひいおばあちゃんの亡霊が出現して、とっさに手を差し伸べたところまでは覚えているんだけど、気がつけば荒れ果てた荒野に一人で立ち尽くしていた。


『……ここは一体どこ?ジョシュは、ノーラは?みんなどこに行ったの?』


 あたしは裸足で、ボロボロの布のようなものだけを体にまとっているだけだった。

 空は分厚い雲で覆われ暗く、横殴りの冷たい雨とごうごうと吹く風にさらされ続けて体は氷のように冷え切っていた。

『ねえ……誰か……!誰かいないの⁈』

 いくら叫んでも返事は返って来ない。

 両手で抱きしめても身震いは止まらず、あまりの寒さにガチガチと歯がなり続け、石ころだらけの大地は一歩歩くごとに鋭角な小石が足に突き刺さる。

『寒い……苦しい……誰か……』


 辛くてー

 いいえ、違う。

 悲しくて涙が止まらない。

 何でだろう、

 どうして、こんなことに。


『どうして……どうして……』


 あたしの大好きな人たち、

 大切な家族。

 みんなどこに行ったの?

 ああ、どうして?


『ああああ……どうして……』


 その時、あたしは気づいたんだ。

 これは、この凍てつくような

 厳しい荒野は

 ひいおばあちゃんの

 心の中だって事に。


 ご主人や太郎おじちゃま、

 愛する人を失った悲しみや後悔で

 ひいおばあちゃんの心は

 ずっと傷ついたままだったんだ。

 自分の娘ーあたしのおばあちゃんが

 結婚して家を出てからは

 独りきりで暮らしていたのも、

 自分を赦すことができなかったから。

 癒しを拒否し、自分を罰するために

 ただ孤独だけを受け入れたんだ。


『違う……違う!そんなのダメ!』


 気がつけばあたしは大声で叫んでいた。


『聞いて!ひいおばあちゃん!

 あたしは難しいことはわからない、

 でも、そんなの違う!

 アーサーおじちゃまだって、

 あなたのご主人だって、

 きっとそんなこと望んでいない!

 そんなあなたの思いを知ったら、

 二人も報われない!』


 あたしの声を否定するかのように風が一段と強くなり、冷たい雨はヒョウ混じりとなって、あまりの寒さと肌を打つ痛さにあたしは気を失いそうになりながら叫び続けた。

 ここであたしが諦めたら、もう、誰もひいおばあちゃんを救えない気がするんだ。


『この街で、この館で!

 みんなで過ごした幸せな時間を、

 穏やかな日々の温もりを思い出して!

 写真のあなたは優しい笑顔の人だった!

 お願い!ひいおばあちゃん!』


 寒さと疲れであたしの体は限界に近くなり、小さな石ころにつまずいて冷たい地面に倒れこんだ。

 顔や体に尖った石が刺さり、激痛が走る。

 何とか立ち上がろうとするけど、もう力が入らない。

 ……このまま倒れたまま……意識を失った方が……痛みもなくきっと楽なんだろうな。

 でもね……でも……!

 あたしは最後の力を振り絞って、声の限りに叫んだ!


『そんなの嫌だ!大切な人たちのことを忘れ、ただ悲しみに身を委ねるなんて、そんなのぜったいイヤッ!』

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