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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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降霊会 part3

 ボーン、ボーン。

 ホルストの『惑星』が静かに流れる薄暗い館内に、古い壁掛け時計の音色が時を知らせる。


 アンとジョシュア、そしてノーラは美しい満月に照らされた「尾道 白猫亭」の二階の一番奥、二人の曾祖母であった吉岡アンが自室として使っていた洋室に小さな丸いテーブルを囲んで手をつないで座っていた。

 月明かりは分厚いカーテンで遮られ、テーブルの上に置かれているオーク材に銀のプレートがはめ込まれた年代物の古い燭台のローソクの灯りだけが、三人の顔をぼんやりと映し出している。


「ふん……時間も頃合い、それなりにふさわしい雰囲気になったわね。それでは、始めるわよ」

 ノーラの声を合図にローソクが吹き消され、室内は手を繋いでいるお互いの顔も見えないほどの完璧な暗闇になった。



「Eloim Essaim frugativi et appelavi

 “エロイム、エッサイム、フルガティウィ・エト・アッペラウィ“

 ー神よ、悪魔よ。我が呼び声を聞け。我は求め、訴えたり」

 ノーラが呪文の詠唱をはじめ、アンにささやいた。

「アン……あんたも一緒に唱えるのよ……」

「……う、うん!エロイム、エッサイム、フルガティウィ・エト・アッペラウィ!」


 自分の手が緊張で少しだけ汗ばんでいることを恥ずかしく思ったアンはそっと握る力をゆるめたが、ジョシュアが優しく、だがしっかりと握り返したおかげで気持ちは少しだけ楽になった。


「エロイム、エッサイム、フルガティウィ・エト・アッペラウィ。我が呼び声を聞け、我は求め、訴えたり!」

「エロイム、エッサイム、フルガティウィ・エト・アッペラウィ!」


 だが何の反応もおこらず、ノーラの呼びかける声が少しだけ大きくなった。


「エロイム、エッサイム、我は求め、訴えたり!」

「エロイム、エッサイム、我は求め、訴えたり」


 アンも負けずと呪文を繰り返しながら、ノーラの声にほんの少しだけど苛立ちが混じっているのを感じていた。


『このまま、何も起こらなかったら、ノーラはどうするんだろう?それにジョシュも。この日のために時間をかけて準備してきたのに……』

 アンはジョシュアの方をちらりと見ようとしたが、暗闇で表情をうかがうことはできなかった。

 ただ、つないだ手の温もりが少し上がったように思える。

「疑う心を持つなら、中止するわよ。彷徨う亡霊となったあの子を救えるのは、あんたとの魂のつながりだけかもしれないんだからね」

 ノーラの言葉に、改めてアンは呪文の詠唱を続けた。


 何の反応もなく、虚しく時間だけが過ぎていたその時―

 突然、女性のすすり泣くような声がほんの小さくではあるが、聞こえてきた。

「これは……彼女なのか⁉」

 暗闇の中、ジョシュアの上ずった声が聞こえる。

「ひいおばあちゃん……?」

「アン、ジョシュア!手を離さないで!……来るわよ!」

 突然、三人がつないだ手を乗せているテーブルがガクンと動き、何者かに揺さぶられているかのように細かく揺れ出した。

「何⁉何がおこったの⁉」

「シーッ!」


 と、すすり泣く声と同時に、建物のあちこちから奇妙な破裂音や壁に何かが当たるような、きしむ様な音が響きだした。

「!!」

 驚いたアンが二人の手を強く握りしめた。

「痛いって!アン、バカみたいに力入れるんじゃないの!引っ叩くわよ!」

「落ち着いて、アン。これはラップ現象だ。亡くなった霊魂が訴えかけてきてるんだよ」

「と、言うことは……!」

「間違いない、彼女だ!」


「まだ早いわよ」

 ノーラの低く、冷静な声が聞こえた。

「降霊術は、何ら関係のないさまよう霊を呼び寄せてしまうこともあるからね」


 暗闇の中、三人がひたすらに待ち続けているとー


『ああ……どうして……ああ……』

 遂に、魂を引き裂かれるような切ないすすり泣く声とともに、暗闇の室内にそこだけが浮かび上がるように半ば透き通った白い女性と思われる亡霊が出現した。


「ひいおばあちゃん!」

「駄目、アン!手を離さないで!」

 ノーラの叫びも間に合わず、思わず手を離したアンに亡霊は凄まじい速さで近づくとその身体に入り込んだ。


「しまった!」

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