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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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降霊会 part1

「降霊会を行うって⁈」

 ナイジェルも去り、静かになった真夜中の白猫亭にノーラの叫び声が響く。

「ジョシュア……あんたいったい何考えてんの?」

「僕は本気だよ、ノーラ」

 ジョシュアは静かだが、確固たる意志を感じさせる力強い声で告げた。

「ねえ、降霊会って何?」

 再び浴衣姿に着替え、紅茶をひっくり返さないように慎重に運んで来たアンが二人の会話に割って入る。


「降霊会ってのはね、19世紀にヨーロッパで流行った霊媒師や霊感の強い人間を介して死者の魂とコミュニケーションをはかる会合(セッション)のことよ。まあ、そのほとんどはインチキだったけどね」


 ノーラは応接室のソファーに女王のように悠然と腰掛けて説明しながら、アンに淹れさせた紅茶に口をつけたーが、その途端に顔をしかめた。

「アン!ちょっと何よこのお茶は!こんな風味もクソもない、風呂の残り湯みたいなものをこのあたしに飲ませるなんて、あんたいい度胸してるわね!」

「ひどーい!一生懸命やってるのに!」

「あ・の・ね、結果がついてこない無駄な努力をいくら積み上げても、栄誉には手が届かないのよ。わかる?」

「何よノーラのイジワル!」

「アン、ちょっと待って。ノーラ、僕が淹れなおすよ」

 ぷーっとふくれ顔のアンと毛を逆立てるノーラを落ち着かせるように声をかけ、紅茶の用意をしながらジョシュアは先々代のハワード公の言葉を思い出していた。


『いいかジョシュア。仮にノーラと出会うことができても、くれぐれも油断するなよ。あいつは伝説の魔法使いでもあるが、呆れるほどプライドが高い上に傲慢で怒りっぽい。その上、飲み食いに関しては異常なくらい厳しくて底意地が悪い』

『底意地が悪い……?』

『ああ』

 ハワードはそれまでジョシュアが見たことないほどの渋い表情を浮かべながら話を続けた。

『第一次世界大戦の時だ。従軍したわしを守護(まも)るという名目でーまあ、半分は退屈しのぎだと思うがー最前線について来たあいつは、戦況が長引いて食糧事情が悪くなったことに激怒して、自分一人で勝手に敵の一個大隊を殲滅してしまったのだ』

『……は?』

『戦場では満足できる食事が取れないことをよほど腹に据えかねていたんだろう。やるだけやってスッキリすると、そのまま城までさっさと帰ってしまいおった』

『意味がわからないよ……』

『わしもだ』

 

『最低限、お茶だけはきちんと淹れられるようになっておけ。わしに仕えた初代のレスターは、新人の頃に紅茶の淹れ方がダメだというだけであいつの魔法と暴言で散々酷い目に合わされて、何度も執事をやめる寸前までいったからな。引き留めるのがどれだけ大変だったか』

『無茶苦茶だ……』

『とにかく。このミュージアムで魔法修行と共に、正式なお茶の淹れ方もきちんと覚えておいた方がいい』


『あの時は半信半疑だったけど、こんな時に役に立つとは』

 淹れ直した紅茶を運びながら、当時のことを思い出し思わず笑みがこぼれたジョシュアをジロリとノーラが睨む。

「ジョシュア!どうせハワードにつまらないこと吹き込まれたんでしょうけど、当たり前の話だから!」

『全くもって、すごい能力だ』


「で、話を戻すけど降霊会の話。あんた、本気なの?」

「ああ。ナイジェルとの戦いに備えて、あなたに力を貸して欲しいけどー」

「それは無理ね」

 ノーラは、ジョシュアの淹れたお茶には文句を言わずに口をつけながら、きっぱりと拒否した。

「今のあたしには、ここを離れることはできない」

「それってやっぱり……ひいおばあちゃんのため?」

 アンが、ジョシュアの横に座ってノーラにたずねる。

「今の若い子はデリカシーってものに欠けるわね、まったく……!」


 面倒臭い時の癖で、フンッと鼻を鳴らしながらノーラはゆっくりと話し出した。


「あたしの本当の運命は、アーサーやハワードとともにあの黒い森のクソ魔女ーニナと戦って命を落とし現世から霊界に移るはずだった。だけど、アーサーを手離し、夫とも死別することがわかっていたアンをどうしても見捨てることができず、霊界の(ことわり)を破って再びこの家に転生したのよ」

 何かを思い出したかのように、ノーラの語りが一瞬止まった。

「……でも、結局上手くはいかなかった。愛する息子と離れ、夫を失い、あの子が心に負った深い傷は癒すことができなかったわ。

 娘の華子ーアン、あんたのおばあちゃんねーが家を出た後は、心を閉ざし孤独の中で死を待つばかりになってしまったのよ」


 そこまで話すと、ノーラはティーカップを置いて窓の外をじっと見つめ低い声で呟いた。


「あたしには、何もできなかった。初代に誓ったウォルズリーの守護者としての契約を守ることができなかったの。

 今のあたしにできることは、悲しみに憑かれ、闇の中を彷徨い続けるあの子を見守ることだけよ」


「だからこそ、だよ」

 ジョシュアがきっぱりと言い放った。

「ひいおばあちゃんの魂を呼び寄せ、悲しみから解放するんだ。そのために僕はこの屋敷を復元し、すべてをあの頃ーひいおばあちゃんが幸せだった頃と同じように再現したんだよ」

 ジョシュアはアンの方を向いて話し続ける。

「アン、君をここへ呼び寄せたのもそのためだ」

「あたし?」

「ああ。今のウォルズリーの関係者で霊的にひいおばあちゃんに一番近いのは、その能力を受け継いでいる君しかいないんだ」

「あたしが、ひいおばあちゃんに一番近い……?」


「君がこの尾道に来てから感じていたものーそれが何よりの証拠だよ」

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