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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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魔法対決ーファイナル

 ジョシュアは怪物を見上げた。

 呪文の詠唱が終わりに近づき、最後の刻が迫っているのが感じられる。 

「あれが兵士が獣化された怪物ではなく、術者が創り上げた虚の肉体だとしたらー」


 あれだけの怪物を創り出せる巨大な魔力を持つ闇の魔法使いが相手だとしたら、自分たちレベルの魔法が通用するはずもない。

 ジョシュアはある決意を固めた。


「こんのおお!いい加減にしなさいよね!!」

 炎撃と氷撃に必死に耐えながら立ち上がり、怪物に向かっていこうとするアンをジョシュアが手を掴んで引き止めた。

「ジョシュ……?」

「アン、僕がやつをくい止める。その間に君は逃げろ」

「ちょ、ちょっと何考えてんのよジョシュ!あたしも戦う!」

「わかったんだ……今の僕たちの力じゃあいつは倒せない」

「いやよ!あたしも同じ一族でしょ!家族なんでしょ⁈」

「もう時間がない……しかたない」


 自分の言葉に(あらが)うアンに対しジョシュアが素早く呪文を詠唱した。

 空中にひし形のキラキラと輝く結晶が大量に発生したと思うと、あっという間に透明の立方体に変化してアンを囲い込んだ。

「なによこれ!ここから出してよジョシュ!」

 アンは力任せに殴りつけるが、透明な壁はびくともしない。

金剛結界(オリハルコンシールド)。この中なら大丈夫だ」

 アンが必死に壁を壊そうと叩きながら何かを叫んでいるのを見つめ、ジョシュアは小さく微笑んだ。


「悪いね、アン。これは当主である僕の役目なんだ」

 ジョシュアの脳裏に、両親を失い闇の中にいた幼い自分を優しく包んでくれた祖父アーサーの笑顔が浮かぶ。

(おじいちゃん)なら、きっと同じことをしていただろうから」


 呪文の詠唱を続ける怪物の前に立ちはだかると、ジョシュアは大きく両手を広げた。

「倒す事が叶わないのならーーー

 ウォルズリーの魂を継ぐものとして、

 この命に代えても誰も死なせはしない!」


 詠唱を終え術を発動させる寸前、怪物は悲壮感に満ちたジョシュアの姿を憐れむように見つめた。

「どうやら見込み違いだったようだな。残念ながらその程度の力しか持たぬようでは君には用はない。

 仕方がない、また数百年待つとしよう--」

 そして、掲げた両手を振り下ろしながら、終わりを告げるように魔法を発動させた。


「闇に開きし孔よ、生あるものすべてを飲み込み塵と化せ。

 極大闇魔法ーー闇孔(ブラックホール)


 突然、上空に漆黒の空間が出現し、それは轟音とともに降下し続け周囲の木々を巻き上げ吸い込みながらジョシュアへと襲い掛かる。


「さようなら、若き当主よ」


 だが、あと数メートルというところまで迫ったところで、ジョシュアは白い歯を見せて不敵な笑顔を浮かべた。

「待っていたよ、あんたが最大級の魔法を放つこの瞬間(とき)を」

「……なに⁈」


 パチーン!!

 ジョシュアが開いていた両手を勢いよく閉じ、改めてゆっくりと開いてみせる。

魔力吸収(アブソープ)ーー!」

 ジョシュアの大きく開いた両手の間が光の帯でつながれ、そこへ巨大な漆黒の空間が吸い込まれてゆく。


「まさか……実体化した魔力のエネルギーをもう一度虚無化し己が肉体に取り込んでいるというのか⁈」 

 怪物がジョシュアに向かって叫ぶ。

「愚かな!たかが人間の容量(キャパシティ)極大(メガ)魔法級の魔力を吸い込むなど、肉体が耐えきれずはじけ飛ぶぞ!」

 怪物の言葉通り、ジョシュアの肉体は大きく震え続け、服は裂け、長い金髪は逆立ち、両目、口、耳などあらゆる箇所から血が噴き出し限界寸前までなのが伝わってくるが、懸命にこらえ続ける。


『虚は実なり、実は虚なり』

 ジョシュアは気が遠くなりそうな圧力に耐えながら、ハワードから教わったヴィジョンを描き続ける。

 そしてーー完全に吸収してしまうと、怪物の顔をじっと見つめながら震える両手を勢いよく突き出すと叫んだ。


「闇は光へー我は穢れし闇の力を光の力へと還すものなりー魔素反転(エレメンツリバース)!」


 ジョシュアの両手から、吸い込まれた膨大な闇のエネルギーが燃え盛る太陽のような光のエネルギーへと反転変化して、一気に怪物に降り注いだ。


「こんな……こんな馬鹿なーーー!」

 断末魔のような悲鳴をあげながら怪物の体が燃え上がるのを見届けたのち、ジョシュアの体は膝から崩れ落ち、地面へとゆっくりと倒れ込んだ。


「ジョシュー!!」

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