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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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虚は実なり、実は虚なり

「それではこちらも本気を出そうか」

 怪物がゆっくりと両手をあげ呪文の詠唱をはじめると、上空に集まってきた黒雲が美しい満月を隠し、あたりは暗闇に包まれた。


 降り注ぐ炎撃と氷撃を何とか食い止めながら反撃する機会をうかがっていたジョシュアだったが、怪物の詠唱を聞いて顔色が変わった。

『奴の唱えている呪文、あれは間違いなく極大(メガ)級の術式!単純な属性魔法でさえ一般の極大魔法並の威力なのに、あんなものを発動されたらいくら防御をしていてもひとたまりもないぞ!』


 ジョシュアは振り返り、自分の後ろで必死に攻撃に耐えているアンに目をやった。

『奴に僕たちの攻撃は通用しない……詠唱が続いている今なら、空間移動を行う“姿くらましの術”で何とか二人で脱出できる……しかし、僕たちが助かっても間違いなくこのあたり一帯は消滅し、たくさんの犠牲者が出るだろう……どうすれば……!』

 必死に思考を巡らせるジョシュアの頭の中に、不意に誰かの声が響いた。


『若く愚かな者…自分が何を学んだのか、思い出しなさい』

『……誰だ⁉』

『虚は実なり、実は虚なり……』

『何だって?……そうか、あの時の……!』



 それはジョシュアがウォルズリー城の通称"ミュージアム"と呼ばれる秘密の空間で、ハワードをはじめとする歴代当主の霊体による魔法習得のための試練を受けている時だった。

「駄目だ駄目だ!そんなものが奴に通用すると思うのか!」

 ジョシュアが放つさまざまな魔法は当主たちにより簡単に弾き返され、厳しい声が飛ぶ。

 もう何千、何万回目かもわからなくなるほど同じことの繰り返しに、ジョシュアは荒い息で膝をついて叫ぶ。

「くそっ!どうして……どうしてこんな!」


「ジョシュアよ」

 ハワードが俯くジョシュアに声をかけた。

「おまえは、魔力とは何か、魔法術とはどういうものか。その本当の意味を理解しているか?」

「え……?」


「魔力とは永遠の世界ー幽世(かくりよ)を満たす無限の力。だが、現世(うつしよ)では意味を持たない虚の存在に過ぎぬ。

 それを幽世(かくりよ)現世(うつしよ)を繋ぎ、その力を導き出して実の存在とするのが魔法術だ。そしてそのために何よりも必要なのは、術者が揺らぎのない世界観=ヴィジョンを保つこと。強いヴィジョンを描くことにより虚は実となる。その時初めて魔力は意味を持つのだ」


「ヴィジョン……」

「そうだ。今のおまえに欠けているのは虚を信じ、実へと変える強いヴィジョンだ」

 ハワードはジョシュアの目の前に片手を差し出した。

「わしの手に触れてみよ」

 ジョシュアが恐る恐る手を伸ばし触れると、それはしっかりとした筋肉と血の通った温かさを感じさせる。

 だが次の瞬間、ハワードの手は温もりを失い、半透明の霊体へと変化した。


「これは……⁈」

「強いヴィジョンを描くことにより、既に霊体と化し虚の存在であるわしの肉体も、こうやって実体化することが可能だ。優れた魔法使いは、肉体をも自由に変化させられのだ」

 ハワードの暗い森の奥にある湖の様な深い蒼色の瞳がジョシュアをじっと見つめた。

「虚は実なり、実は虚なり。くれぐれも忘れるでないぞ、ジョシュア」



『……あいつに僕たちの攻撃が通じず、高度な魔法が使えるのは……』

 ジョシュアは怪物を見上げた。呪文の詠唱が終わりに近づき、最後の刻が迫っているのが感じられる。 

「あれが兵士が獣化された怪物ではなく、術者が創り上げた虚の肉体だとしたらー!」

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