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大魔法使いの末裔である英国貴族の若き当主とケンカっ早いハーフモデルのアタシが体験したのはロンドン、ニューヨーク、東京、尾道を舞台にした奇妙な真夏の夜の夢物語!  作者: ヨシオカセイジュ


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戦闘開始 part3

「オラオラオラオラオラオラ―!」

「月に代わって、お仕置きよー!」

「これはクリリンのぶーん!」


 アンは子供のころ夢中で観ていたマンガやアニメの必殺技を、獣の軍団に次から次へと炸裂させていった。

 必殺技の名前を叫ぶたびに、巨大な獣のような兵士たちが宙を舞う。

「散開して森の中へ入れ!体勢を立て直すぞ!」

 必死で叫ぶ兵士の前に素早く先回りすると、眉間にむりやりシワを寄せ精いっぱいの低い声でつぶやいた。


「オマエハモウ、シンデイル……!」

「は、はい?」

「あたたたたたたたたたたー!」


 もちろん秘孔など知っているわけもなく、テキトーかつ力任せにデコピンしているだけなのだがー

「ひ、ひでぶ!!」

 テンションと共に上昇し続ける魔力の破壊力はすさまじく、男の頭部は大きく吹き飛ばされてしまった。


「くそっ、調子に乗るな小娘!」

 慌てて銃を取り出す兵士もいたが、構える間も無く雷が直撃してあっという間に黒焦げと化した。

 これには、さすがの恐れ知らずの兵士たちも絶叫した。

「こんなの……どうすればいいんだ!!」


「銃器は反則ね。悪いけどもう少し、うちのお姫様のお相手をしてもらうよ」

 辺り一帯を、金属に自動反応する帯電の場と化す雷属性の魔法ー雷陣(サンダー・フィールド)を仕掛けたジョシュアは、そうつぶやくと改めて眼下の光景を眺めた。

 満面の笑みを浮かべ、鬼ごっこのように逃げ回る兵士たちを追いかけまわしているアン。

 それはまるで珍しい昆虫を見つけた子供や、お気に入りのボールを夢中で追いかける子犬のように見え、ジョシュアはあきれたように苦笑いを浮かべた。

「やりたい放題だな。まあ、楽しそうなのは何よりだけど、もう少し淑女(レディ)らしい優雅さを身につけてもらう必要があるな」



 やがて、アンの大暴れもあって十数名いたはずの兵士たちはほとんどが消滅し、残ったのは呆然と立ち尽くすリーダーのギデオンと、深いダメージを負った数名だけとなっている。

「……あらかた片付いたようだな」

 ジョシュアは屋根の上から軽やかに飛び降りると、アンのそばにふわりと着地した。


「あ、ジョシュ!どう、見ていてくれた?」

 アンが自慢げに胸を張った。

「ああ、全部見ていたよ、良くやった」

「あたしの必殺技、凄かったでしょ!?」

「そうだね……ちょっとやりすぎじゃないかと思うけど」


 アンの上気した顔を微笑ましく思いながら、ジョシュアは視線を疲れ切った兵士たちの方へと向けた。

「さて、と。君がリーダ-のようだね」

 ジョシュアはギデオンに向かい合うと話しかけた。

「色々と聞きたいことがあるんだ。大人しく従ってくれたら、君たちの安全は我がウォルズリー家が保障するよ」

 下を向いて沈黙するギデオンの代わりに、負傷した部下たちが口々に助けを求める。

「ほ、本当か?わかった、投降する!」

「俺たちも命令を受けただけなんだ!」

「隊長、投降しましょう!」



その時だった。


「ふ、ふふ」


「ふふふ、ふふふふ」


 下を向いたままのギデオンが小さく含み笑いをするのと同時に、白猫亭の周囲に重く濁った気配が集まってゆくのをジョシュアは感じ取った。

『一体なんだ、この気配は……!』

 それはハワードを筆頭にしたウォルズリーの先祖たちとの厳しい魔法の修練ですら感じたことの無い、精神も肉体も押しつぶされるほどの凄まじい圧力を感じさせた。


 異変に気づいたアンの身体が震えている。

「ジョシュ……ジョシュ!気持ち悪い!何なのこれ!」

「僕から離れるな、アン」

 アンを背後に庇い、目の前のギデオンに一分の隙もなく構えながらも、ジョシュアは自分の身体も小さく震え、冷や汗が噴き出している事に気がついた。

『これは……僕は恐怖しているのか?違う!これは……絶望だ!』



「我がウォルズリー家?おやおや、それは少し気が早いんじゃないかねえ」


 その声は、先ほどまでのギデオンの軍人ならではのきびきびとしたものとは全く違う、どこか調子はずれで不自然な不気味さに満ちていた。


『お た の し み は こ れ か ら だ』


 そう囁くと、ギエッ、ギエッと骨が軋むような笑い声をあげながら、アンとジョシュアの目の前でギデオンの体が奇妙な形にねじれながら巨大化していった。

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